高齢化社会を迎えた我が国において、人工関節の長寿命化への需要が高まっている。本研究では、金属カップ/金属骨頭で用いられるCo-Cr合金表面の耐摩耗性を高めるための表面コーティング用の機能性材料を開発することを目的とする。具体的には、新たに合成法を確立したグラファイト-カーボンナノチューブ(CNT)複合材料を摺動面に形成し、トライボロジ特性に優れ、また母材との密着性の高い長期耐用性人工股関節を実現する。 カーボン複合材料の成長は、アルコール化学気相成長法(CVD)を用いた。Co-Cr合金表面にアルミニウムを20nm蒸着し、これを電気炉で大気中300℃、30分加熱Al_2Ox膜を得た後、アークプラズマガンを用いてCoを2nm(CNT用)及び9nm(複合材料用)溶射した。CNT及び複合膜の合成条件は、基板温度800℃、圧力160torr、成長時間は5分であった。引掻試験には、ボールオンプレート型の摩擦試験機を用いた。垂直荷重を50g(0.049N)、1g(9.8×10^<-3>N)とした。 50gの場合の摩擦試験の結果、未処理の基板は約0.35、CNT、複合膜は約0.23と、カーボン膜を成膜すると摩擦係数が約30~40%減少することが分かった。この原因を探るために電子顕微鏡観察を行った。両薄膜中のCNTは摺動前には垂直配向していたが、摩擦試験後、いずれも平行に倒れていることが分かった。この表面形態がうまく機能して低摩擦が実現したものと考えられる。この現象は、低荷重1gの実験より、第1回目の摺動から生じることも明らかになった。CNTと複合膜の場合を比較すると複合膜の方がやや高い摩擦係数を示した。これは、複合膜の最表面層のグラファイト薄層にクラックが入り、これがCNTの平行配列を阻害し、下地金属が一部露出することによるものである。以上のように本研究からCNT被覆膜が金属表面の摩擦力低下に有効であることが明らかになった。また、最初から表面に平行に成長させることでより安定な摩擦挙動が実現できることが予想される。
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