研究課題/領域番号 |
23651103
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
末元 徹 東京大学, 物性研究所, 教授 (50134052)
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研究分担者 |
南 康夫 東京大学, 物性研究所, 博士研究員 (60578368)
長谷川 登 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (50360409)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノ計測 / 軟X線レーザー / 顕微技術 / 時間分解 |
研究概要 |
本研究では,レーザー照射で誘起される融解,アブレーション,光誘起相転移など,超高速で起こる不可逆的な現象に伴う固体表面形状の変化を観測するための,高空間分解能反射型軟X線時間分解顕微鏡を開発する.試料に対してポンプ用レーザーパルスを入射させ,時間遅延をつけた軟X線レーザー光(波長13.9 nm)を試料に照射し,散乱軟X線をゾーンプレート(FZP)で結像することにより,表面顕微像のピコ秒スナップショットを取得することが目標である.研究計画に書かれているとおり,今年度は光学系の設計と製作を中心に研究を進めた.限られたマシンタイム(1~2週間)の間に光学系を設置して実験を行い,使用後は速やかに撤去する必要があるので,一つの金属板の上に試料やFZPの駆動機構,光軸合わせ用のアイリスなどを組み上げるユニット方式を採用した.物性研究所において顕微光学系ユニットを設計製作し,粗い調整までを行った.2月に1週間のマシンタイムをとって軟X線レーザー光を導入し,画像の取得を試みた.その結果,シングルショットでSi上Pt膜につけた傷の鮮明な画像を得ることに成功した.倍率約20倍で約1.5μmの分解能を得た.試料に対して斜入射の光学系を採用しつつFZPで結像するという点が全く新しい試みであったが,この実験により,斜め入射の反射光学系が実用になることが実証された.焦点深度の許容範囲は広くないが,倍率の増加と共に観察領域のサイズも減少していくので,実用上問題が起こらないはずであるという発想である.今回は22.5度の入射角であったが,角度を極限まで浅くしても横方向の空間分解能は損なわれることがないので,幅広い物質群に適用可能であると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の目標は,ポンプ光は導入せず,FZPによって拡大像を得ることであったが,これに関しては空間分解能が十分とは言えないものの,調整機構なども正常に機能し,鮮明な画像を得ることができたので,目標はほぼ達成したと考えている.分解能については,試料とカメラの距離を大きく取ることで倍率を上げれば改善できると予想される.
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今後の研究の推進方策 |
23年度は1週間のマシンタイムしか取れなかったために倍率を上げる試みはできなかった.今年度は少なくとも2回以上のマシンタイムをとり,本研究の最終目標である時間分解画像の取得を試みる.第一回目のマシンタイムでは,カメラの位置を変更し,倍率を上げて目標の空間分解能を実現することを最優先で行う.装置に関しては,2月の実験で明らかになった問題点を解決するために,次のような対策を講じる.1)真空度の向上(X線CCDカメラの受光面の汚染を防止)2)アクチュエーターからの漏れ光の除去(バックグラウンド信号の低減)3)FZPマウントの改良(FZPの脱着を安全に行う)4)FZP位置制御機構の付加(光軸の調整を容易にする)5)試料台の水平移動機構の付加(試料上での画像取得位置を自由に設定)6)FZPからの迷光除去マスクの付加(画像に重畳する不要な光を除去しコントラストを向上)以上の対策により,効率よく最適条件を探すことが可能になり,S/N比も改善され,よい画像が取得できると考えている.十分な空間分解能と明るさを確保したのち,ポンプ光を導入して,最後のマシンタイムで時間分解測定の実証実験を行う.対象としては,Pt膜のアブレーション,NiTi膜におけるレーザー誘起相転移などを予定している.ポンプ光と軟X線の同期については,時間分解干渉計実験において経験を積んでいるので,確実に実現できると考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度はFZPを購入する予定であったが,原子力研究開発機構より使用可能なものを借り受けることができたので,その経費が節約できた.代わりに真空対応の光学部品の調達を進め真空度の向上に努めたが,余剰金が発生した.24年度はさらに真空度の改善を行うために真空対応のステージ類,アクチュエーター,配線材料を購入するほか,前項で詳述した各種の改良を行うために必要な部品を購入し,金属加工を外注する.また研究経費の一部は柏から京都への出張旅費として使用する予定である.(品 目:概算金額)(1)ステージ類:400,000円 (2)金属加工:300,000円 (3)旅費:100,000円 (4)その他:80,000円, 合 計880,000円
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