研究課題/領域番号 |
23651112
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
岩堀 健治 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 研究員 (90467689)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 磁性ナノ粒子 / フェリチン / 発熱 / ハイパーサーミア |
研究概要 |
本研究は直径 12 nm の球殻状タンパク質であるフェリチンタンパク質が保持する直径 7 nm の内部空洞内に外部刺激により発熱するナノ粒子を作製することで、現在研究が進められている多くのドラッグデリバリーシステム (DDS) 用ナノケージの緒問題を解決し、がん治療に効果的なナノ粒子温熱効果(ハイパーサーミア効果)を有効活用した新 DDS 構築を目指したものである。 初年度にあたる本年は、まず最も重要な要素技術の一つである温熱効果を発揮する発熱ナノ粒子の作製を目指した。フェリチン空洞内に高周波磁場により発熱するナノ粒子である、酸化鉄(マグネタイト・Fe3O4,マグヘマタイト・Fe2O3) の作製を行った。始めに、通常の水溶液中で作製したナノ粒子は当初の予想通りフェリハイドライト(5Fe2O3・9H2O)ナノ粒子であった。そこで反応溶液の温度を高くし酸化剤を添加するとともに、窒素ガスでバブリングすることで溶液中の溶存酸素量を減少させた反応溶液を使用してナノ粒子を作製した。この改良ナノ粒子作製法によりフェリチン内部に酸化鉄のナノ粒子を作製することに成功した。作製したナノ粒子のバルク体は目視によりネオジウム磁石への結合を確認でき、また、高分解能 TEM 観察及び EDX , XRD 等によるナノ粒子の元素分析によりマグネタイト (Fe3O4) であることが明らかになった。さらに、これらのナノ粒子作製のための溶液条件の検討中にフェリチン内部への FeS と CuS 新規ナノ粒子の作製にも成功した(論文提出済)。 また、フェリチンへの細胞認識ペプチドの結合のために、フェリチン外表面に 24 個のシステインを呈示した SH-リコンビナントフェリチンの作製にも成功した。現在、この部分の SH 基をターゲットにしてマレイミドリンカーを用いてフェリチンと認識ペプチドの結合を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初に計画した最も重要な要素技術の一つである、フェリチン内部に磁性ナノ粒子を作製を目指して実験を進めたが、詳細なナノ粒子作製条件の検討により、フェリチン内部空洞に Fe3O4 の酸化鉄ナノ粒子を作製することに成功し、磁性ナノ粒子ーフェリチン複合体の作製に成功した。本磁性ナノ粒子作製のための反応溶液条件の検討に多少時間がかかったが、各種元素分析により作製したナノ粒子は酸化鉄ナノ粒子 (Fe3O4) であることも確認できた。現在、ひきつづき作製した磁性ナノ粒子に高周波磁気等の外部刺激を照射することにより、本ナノ粒子が発熱するかどうかの検討を行っており、本研究はほぼ研究計画の項目通りに進んでいると考えている。 また、初年度のもう一つの目標である発熱バイオナノ粒子へのがん細胞認識機能ペプチドの修飾については、フェリチン表面に認識ペプチドを結合するために 24個のシステイン残基を導入した SHー修飾リコンビナントフェリチンの作製にも成功した。今後はこの部分への認識ペプチド結合は、今までフェリチンタンパク質に DNA 結合を行ってきた私の研究知見と条件を参考にすればすぐに達成できるはずである。 以上の結果をまとめると、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2 年目である本年度の研究方針としては、初年度に作製した磁性ナノ粒子に対して、高周波磁場により実際に発熱するかどうかの検討を行うとともに、2 年目の目標である生体内フェリチンの取得と磁性ナノ粒子の作製についても着手する予定である。また、初年度に作製した酸化鉄ナノ粒子 Fe3O4 が発熱しなかった場合を考え、溶液条件の温度と酸化剤の条件を再検討をすることで第二のターゲットである Fe2O3 ナノ粒子の作製も視野に入れている。 また、初年度の温熱効果を発揮する発熱ナノ粒子のもう一つのターゲットである、金(Au) ナノ粒子の作製に関しては、多くのナノ粒子作製条件の検討を行った結果、直接フェリチン内部に Au ナノ粒子を作製するのは困難であるという結果が得られたため、現在、Au ナノ粒子を作製のための代替方法を検討中である。これは金ナノ粒子のまわりにフェリチンサブユニットを結合させることで球状にして機能を発揮させるという方法で(ポータープロテイン法)、実際に TEM 観察で金ナノ粒子の周りにフェリチンサブユニットが結合しているのを観察できている。この方法をより発展させ金ナノ粒子ーフェリチン複合体を作製する予定である。 これらの計画に従い、ナノ粒子作製方法を改良しながら効果的に発熱するナノ粒子を作製するとともに、最終的にフェリチン外部に認識ペプチドの結合を行い 発熱バイオナノ粒子の発熱性能評価及び発熱コントロールとDDS 適用のための機能確認をおこなっていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額が生じた理由としては、震災の影響で計画していた装置及び試薬が手に入りにくくなり、既存のもので対応したことに伴うものである。初年度は磁性ナノ粒子の作製を精力的に行ったため、既存設備にある装置を使用することで十分研究を進める事ができた。しかし、次年度はナノ粒子の発熱の特性評価や機能発現を効率良くすすめるために、当初計画にある装置の購入を検討している。また、磁性ナノ粒子の大量作製も必要となるためタンパク質源としての大量のフェリチンタンパク質購入と認識ペプチド合成費用、結合用リンカー試薬、さらにヒト由来のフェリチン取得に関連したバイオ実験(試料及びディスポーザルプラスチック器具類)を中心に主に研究費を使用する予定である。また、フェリチン大量精製と分析を迅速化するために HPLC、FPLC 用新型カラムの購入も検討している。また、初年度は購入を見送ったファンクションジェネレーターもナノ粒子の発熱実験の効率化のために購入予定である。 現在、論文作成中であるため、初年度、及び本年度に得られた成果を対外的に発表するための費用(論文投稿料、印刷費、学会参加費、校閲料)を研究費として計上する。
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