1.電極の作製: 前年度の研究により、微細加工電極作製プロセスにおけるグラフェン表面の汚染を防ぐことが重要であると認識した。今年度はまず、電極作製プロセスにおける汚染の状況を主に原子間力顕微鏡観察によって評価した。SiC上エピタキシャルグラフェンを用いて、従来法であるリフトオフ法により作製したマイクロ電極では、グラフェン上にフォトレジストが残存することが確認された。グラフェンを壊さず残存レジストを除去するためにはピラニア洗浄が最適であると判断したが、ピラニア洗浄後にはしばしばグラフェンの一部が剥離することが明らかになった。さらにグラフェンの電極作製プロセスの最適化実験を効率的に行うために、酸化膜つきSiウエハ基板に転写したCVDグラフェン(市販品)を用いた検討を同時に行った。SiC上エピタキシャルグラフェンと異なり、市販品には試料間のグラフェンの質のばらつきがあり、安定的な評価は難しかった。これらの状況により、電極作製に計画からの遅延が生じた。 2.酸化グラフェン還元体を用いた電気化学計測 グラフェンを用いた電極作製に解決すべき課題が多数見つかったため、視点を変えて、酸化グラフェン還元体で構成された電気化学測定用電極の作製・評価を並行して開始した。金表面を酸化グラフェンで被覆した後にヒドラジン蒸気で還元し、酸化グラフェン還元体を表面に有するくし形電極を作製した。一対のくし形電極間が酸化グラフェン還元体により通電してしまう問題点を解決するために、新たな作製プロセスを考案した。得られたくし形電極は、競合ELIZA法を用いた電気化学免疫測定法により、ストレスマーカであるコルチゾールを7.0×10^8 μA/μM/cm2の感度でモニターできることを実証した。
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