前年度、アントラキノンとペリレンがDNA二重鎖を大きく安定化することを見出した。またアントラキノンあるいはペリレンTN 1残基に対して天然のヌクレオチドを2残基の割合で導入したTN-DNAコンジュゲートの融解温度(Tm)が未修飾のDNA二重鎖と比較して15℃以上向上した一方で、対応する相補的なPNAとは未修飾のDNA/PNA二重鎖と比較してTmが低下した。このようにTN-DNAとPNAの組み合わせがストランドインベージョンの条件を満たしていることが分かった。そこで今年度は45merの合成DNA二重鎖をテンプレートに使用し、TN-DNA/PNAの組み合わせでインベージョンが起こるかどうか検討した。インベーダーに使用するTN-DNAとして、15merの天然のヌクレオチドに対して天然のヌクレオチド2残基毎にアントラキノンTNを6残基挿入したコンジュゲートを合成した。テンプレート二重鎖としては、インベージョン部位が末端にあるものと中央にある45merのDNA二重鎖を二種類使用した。まずTN-DNAと天然のDNAとの二重鎖が安定化するNaCl 100 mMのバッファー条件で、37℃8時間テンプレート二重鎖、TNを6残基導入したTN-DNA、PNAを共存させた。その結果、TN-DNAとPNAがテンプレートDNA二重鎖に対して10等量以上加えたところ、インベージョン部位が末端にあるテンプレートDNA二重鎖に対しては明確なインベージョンが観察された。しかし同じ条件でもインベージョン部位が中央にあるテンプレート二重鎖へのインベージョンは見られなかった。そこで塩濃度を10mMから200mMに系統的に変化させて検討したところ、わずかではあるが10 mMで中央部へのインベージョンが観察された。以上のように当初の計画通り、DNA二重鎖へのインベージョンを実現した。
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