数cm角のガラス基板に数10-100mの流路を刻んでさまざまな化学機能を集積化するマイクロ化学チップの研究が世界中で繰り広げられ、従来の分析や合成の高速化・微量化・小型化・高機能化を実現して、応用範囲が大きく広がっている。このマイクロ流体の制御には、水/油の多層流をベースとして、液滴流れや平行流が用いられてきた。しかし、その流速はマイクロ空間の大きな圧力損失によりcm/s程度に制限され、流体に大きなエネルギーを付与したプロセスはこれまで困難であった。そこで本研究では、気相中の液滴を10m/s以上に加速して、マイクロ空間の制御された流れの中で液滴と液滴を衝突させることで、液滴の先端に運動エネルギーを局所化して、これまでにない新たな化学プロセスを創成することを目的とした。 本研究では部分的表面修飾によりラプラス圧を制御して、駆動圧力を調整することでマイクロメートルスケールの液滴を生成して、発射・加速することに成功した。特に液滴を液体から氷へと相転移させることで氷と壁面との吸着力を利用して、印加できる最大圧力をMPaレベルまで高めることに成功した。その結果、加速した液滴は最大で20m/sまで可能となった。これは衝突により表面にエネルギーを集中させれば、化学反応に必要なエネルギーを与えられることを意味する。従来のマイクロ流体の研究とは異なり、液体を加速して高い運動エネルギーを与える本基盤技術は今後混合や細胞の破砕、化学反応などマイクロ流体の分野に新しい流体操作を提供できると考えられる。
|