無秩序に振る舞う電子集団からコヒーレントな流れを引き出す電子ブラウンラチェットは、生体機能に倣ったメカニズムで高効率かつ低エネルギーでの電流輸送を可能にする素子である。将来の低消費電力エレクトロニクスにおいて重要な役割を果たす素子としてと期待される。本研究の目的は、雑音やゆらぎを利用した超低エネルギー電子輸送を目指し、1次元的な化合物半導体ナノワイヤチャネルに非対称ゲートを周期的に設けた電子ブラウンラチェット素子を実現し、コヒーレント電子輸送の実験実証とその評価検討を通して室温動作の指針を得ることである。 平成25年度は、半導体ナノワイヤ中に鋸歯状のポテンシャルを形成する素子構造を半導体GaAsナノワイヤに多重ショットキーゲートを設けた独自のブラウンラチェット素子の動作評価と高効率化に向けた検討を行い、以下の成果を得た。 (1)ランダムなパルス列および帯域制限された白色雑音を用いて上記素子にてフラッシング動作(鋸歯状ポテンシャルのON/OFFを繰り返す動作モード)を行い、室温にてコヒーレント電流の生成に成功した。ランダム信号を用いたフラッシング電流の実験的観測も世界初である。 (2)フラッシング電流がゲートしきい値や素子構造に依存性することを実験的に確認した。フラッシング信号としきい値の関係に最適値がある。また、生成電流は非対称ゲートの数に依存し、ゲート数を増すと電流は増加する。10ゲート以上ではその変化は無くなり同一の特性を示す。非対称ポテンシャルが多いほどナノワイヤ中の電子運動のコヒーレンシが増大する結果より電荷転送量のばらつきを内部補償するメカニズムが存在するものと考えられる。
|