研究概要 |
原子層程度の極薄膜厚内で急峻な磁気モーメントの方向変化が生じる積層膜材料系を見出すべく、RKKY振動を示す貴金属スペーサー材料と3d遷移強磁性金属材料との組み合わせで材料探索を行った。超高真空スパッタリング法を用いて、主にCo基強磁性材料を用いて貴金属スペーサー材料(Au, Ag, Pt, Ru, Cu)の膜厚を変化させたスピンバルブ型積層膜を作製し、2枚の強磁性層磁化の反平行配列の成否について検討した。その結果、1~2原子層の厚み範囲で反平行配列が実現できるスペーサー材料はRuだけであることが明らかとなった。 Ruスペーサー中における伝導電子のスピン情報の損の程度を調べる為に、2 nm程度の厚みのRuをスペーサーとしたCo-Ir/Ru/Co-Ruの積層構造を有する垂直電流通電型磁気抵抗薄膜素子を作製し、その伝導特性について調査した。その結果、磁気抵抗変化率は0.2%と、同程度の膜厚のCuをスペーサーに用いた場合に比較して極めて小さく、Ruスペーサー中での伝導電子のスピンフロップ散乱が顕著であることが判った。 極薄スペーサー層のRKKY相互作用による大きな反強磁性結合に抗して、2枚の強磁性層の磁化回転を伴わない安定反平行配列を低磁界域で実現する為には、片方の強磁性層に大きな交換磁気異方性を付与する必要がある。反強磁性層にMn-Irを用いた場合の交換磁気異方性は積層界面に誘導される非補償Mnスピンの大きさと相関することから、非補償Mnスピンの強磁性層材料依存性について放射光XMCDの手法で系統的な調査を行い、第一原理計算により求めた積層界面の電子構造との比較検討を行った。その結果、強磁性層の組成ならびに結晶構造によって積層界面における交換相互作用の符号ならびに大きさが変化する結果として非補償Mnスピンの大きさが変化することを明らかとした。
|