研究概要 |
直径数百ナノメートルの穴の列(ナノホール列)を蜂の巣状に形成した金属薄膜に注目し、その周りの電磁波モードに対するバンド構造を平面波展開法を用いて調べた。この系では、金属表面に生じるブロッホ波表面プラズモン・ポラリトン(BW-SPP)が、グラフェン中のπ電子系と同様のバンド構造を有すると考えられ、特に、逆格子空間のK点付近にディラック点が現れると予想される。実際に計算を実行したところ、いくつかの条件においてディラック点が存在する結果が得られた。この結果が確定的であれば、人工グラフェンと呼べる系を新規に発見した事になり、今後の大きな発展が期待できる。しかし、展開に用いる逆格子ベクトルの数に対する結果の収束性が悪く、確定的な結論はまだ得られていない。 上記と並行して、時間領域有限差分(FDTD)法を用いたシミュレーションを行う環境を整備した。その上で、オープンソース・ソフトウェアであるMeepを用い、三角格子状のナノホール列を有する金属薄膜に対して反射スペクトルを求めた。計算結果を実験結果と比較する事により、反射スペクトルに現れるディップの一つがBW-SPPの共鳴励起に由来することを確かめると共に、もう一つのディップの起源に対して理論的な示唆を与えた。(K. Nakamoto, R. Kurita, O. Niwa, T.Fujii and M. Nishida, Nanoscale, 3, 5067 (2011).)この結果は、蜂の巣状ナノホール系を用いたバイオ・センサーを設計する上での重要な指針を与える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、計算の収束性を改善するために、計算手法を一部変更し、散乱行列の方法とLifeng Liによって開発された因子分解則(L. Li, J. Opt. Soc. Am. A 13, 1870 (1996))を用いて、新たなシミュレーションを行なう。既にプログラムを作成し実際に計算を始めているが、新手法では計算時間が大幅に増大する事が分かり、アルゴリズムを一部修正すると共に、新規にワークステーションを一台導入することで、これに対処する予定である。新手法でのシミュレーションにより、2次元ナノホール列におけるディラック点の存在を確定し、ナノホール列リボンでのエッジ状態の存在を確認する。 次に、ナノホール列に対する透過・反射スペクトルを評価する。上記の新手法を用いれば透過・反射スペクトルが容易に計算出来る。新手法とFDTD法と合わせて2つの手法を用いることで、スペクトルを詳細に検証することが可能と考えている。これにより、ディラック点とエッジ状態がスペクトルに与える影響を明らかにし、さらに、バイオ・センサーへの応用可能性を探る予定である。
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