蜂の巣状ナノホール列を有する金属薄膜における電磁波モードを求めるために,散乱行列法を用いた数値シミュレーション・ソフトウェアの開発を行った.昨年度の研究で問題となっていた計算の収束性の悪さに関しては,因子分解則を適用することにより解決を図った.本研究課題では,蜂の巣構造の対称性を維持することが重要であり,ナノホールを円筒形に保つ必要がある.円筒形の界面に対して因子分解則を適用するために,仮想的な矩形構造への座標変換を施した.結果として安定で正確な計算が可能となった. 上記のソフトウェアを用いて散乱行列の特異性を調べる事により,金属膜に局在した電磁波モードを探索した.結果として,ナノホールに強く束縛された電磁波モードが存在する事が分かった.このモードのフォトニック・バンドは,逆格子空間のK点の位置にディラック点を持ち,グラフェン中の電子のエネルギーバンドと良く似たバンド構造を有する.また,バンド構造は膜厚にはほとんど依存しないが,バンド幅がナノホール間の距離に強く依存する事が明らかとなった. この電磁波モードの起源を解明するために,金属膜中の単一ナノホールに対する解析解の導出を行った.その結果から,このモードがナノホール中のHE11導波モードに由来する事が分かり,シミュレーションで得られたバンドの中心周波数がHE11モードの遮断周波数に一致する事が分かった.HE11モードでは遮断周波数において伝搬定数がゼロとなるため,膜厚に依存しないモードとなる.また,ナノホール間の結合は金属中の減衰波によって生じるため,このモードは強束縛モデルで記述可能である事が分かった. 以上の結果より,ナノホールがグラフェン中の炭素原子と同等の役割を担い得る事が明らかとなり,今後ナノフォトニクスにおける「人工原子」としての活用が期待できる.
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