本研究では,移動不便者のモビリティを補助的に確保するため,相乗りをシステムとして地域に実装し,その実証実験を行う過程において,互酬性に基づくインセンティブをシステムにどのように埋め込むかを検討した研究である.需要が薄い地域ではデマンドバス等でもアイドルコストなどがかかり,持続性が問題になる.そこで日常的に走行している自動車への相乗りによって地域の移動を補完する仕組みと,それを支援するシステム開発を行い,それを実装し実験を行った.相乗りはドライバーが負担が発生するが,利用者が金銭的に対価を支払うことは法律上困難である.そこで,ドライバーと利用者の間に互酬的動機をうまく働かせるような仕組みを設計し,金銭のやり取りがないシステムとして実証実験を行った. 実証実験はドライバーに全くインセンティブが働かない状態で始め,どのように参加のインセンティブを高めるのかを計画したが,実際には,ドライバーは無償ボランティアであることを明示したにもかかわらず最初から10名以上の登録がなされた.また,利用登録者は15名以上確保され,経済的な負担は電話代等の連絡費用だけであるとした.しかし,予想に反して,利用者がシステムをまったく利用しなかった.そのため利用登録者にヒアリング等を行ったところ,互酬的な意味での心理的な負担感が大変大きいことが明らかになった.そこでドライバーへのインセンティブとして導入予定であったポイントシステムを急遽利用者への負担軽減策として導入した.その結果,利用が発生し増加し続けている.また実験中に行ったヒアリングでは,システム運営費用の負担に対しても利用者の支払意思額が比較的高いことも明らかになり,負担が小さい状態では,ドライバーのインセンティブは維持可能であり,利用者の互酬的な負担感を低減することが重要であることが明らかになった.
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