研究課題/領域番号 |
23651160
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
鳥飼 宏之 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (50431432)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | カプセル消火 / 不活性ガス / プール火災 / ゴム風船 / 消火可能限界 / 熱容量 |
研究概要 |
不活性ガス消火法の利用範囲の拡大を目ざして,カプセル消火法を考案した.そのカプセル消火法の効果について実験室規模のプール火災を対象として基礎的な検討を行っている.カプセル消火法では,不活性ガスをカプセル膜で包むことによって空気との混合を防ぎ,そして,その膜を火炎との接触で破膜させることにより,高濃度の消火ガスを一気にそして大量に火炎へ放出し消火を達成する.本研究はカプセルにゴム風船を用いる. これまでの研究から,窒素,二酸化炭素そしてアルゴン80 %+窒素20 %の混合気を消火ガスとして用い,n-ヘプタン・プール火災を消火対象に,そして燃料容器直径をパラメータとして変化させてゴム風船消火の実験を行った.その結果,完全消火を達成するのに必要となる不活性ガスの最小体積量(消火可能限界値)に,その不活性ガスの密度と定圧比熱をかけて求まる熱容量の値が,ガス種によらず燃料容器直径が決まると1つの値となることを明らかにした.ゴム風船消火の消火可能限界値は不活性ガスの熱物性で整理できることから,その値は不活性ガスの希釈効果に比べて熱的な消火効果に依存していると考えられる. そこで本年度は,単位質量当たりの発熱量が異なる3種類の液体燃料(n-ヘプタン,エタノールと1-ブタノール)を用いて4種類の不活性ガス(窒素,アルゴン,アルゴン+窒素,二酸化炭素)による消火実験を行い,その発熱量の違いがゴム風船消火の特性に与える影響について検討した.その結果,ゴム風船消火の消火可能限界から決まる不活性ガスの熱容量の値で,各燃料種の単位質量あたりの発熱量を除した値の大きさが,火源の容器径が決まると,つまり火炎規模が決定されると,燃料種そして不活性ガス種に依存せず一つの値を示すことがわかった.更に,その(燃料の発熱量)/(消火可能限界での不活性ガスの熱容量)の値は,容器径が増加すると減少することもわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はゴム風船をカプセルとして利用した新しい不活性ガス消火法の確立を目指している.不活性ガスは水や粉末消火剤で生じる水損・汚損そしてハロン消火剤のような環境負荷を生じない.しかし,消火ガスは周囲気体と混合し容易に消火能力が低下する.そこでゴム風船に消火ガスを充填することでガス濃度の低下を防ぎ,そして火炎に接触・破裂させることで高濃度の消火ガスを大量かつ瞬間的に火源に供給する.このゴム風船の利用によりガス消火の能力を向上し,使用量を低減することで従来の消火法にはない迅速でクリーンに消火を達成する方法を創出することを目指している.具体的な研究目的としては,消火対象にプール火災を用い,その火炎規模と消火達成に必要なガス量との関係性を解明し,またその関係性を決定する消火メカニズムの解明も行うことにある. 初年度となる平成23年度は,ゴム風船消火の消火特性であるプール火災のパン直径と消火に必要な不活性ガスの最小熱容量との関係を,発熱量が異なる3つの燃料種(エタノール,ブタノール,n-ヘプタン)と4種類の不活性ガスを用いてラボスケールで解明することを目的としていた.当初予定していた実験はすべて遂行し,不活性ガスの消火可能限界値における熱容量(最小熱容量)の値と燃料種の発熱量との関係性を明確にすることができた.このことから,本研究は計画の通りに順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,ゴム風船破膜時に生じる流れの可視化とPIV法(Particle Image Velocimetry)による流速測定を行い,ゴム風船消火の消火メカニズムの解明を試みる. ゴム風船のような張力を有するカプセルに充填されたガスは,ゴム風船の張力によって圧縮され,ゴム風船内圧と外気圧との間に差圧を形成する.このゴム風船が破膜すると,まず,そのゴム風船の内圧と外圧との差圧の大きさに依存して破膜位置から充填ガスが高速で放出され,"第一の流れ"が形成される.そして,ゴム膜が破膜と同時に張力によって収縮することにで,ゴム膜の収縮位置から再度,不活性ガスが破膜方向へ押し出され,"第2の流れ"が形成される.このように張力を有するカプセルでは,一回の破裂で2つの流れが形成される. 他方,拡散火炎の消炎現象においては,火炎の安定性を支配する火炎基部を局所的に消火しても,消しきれなかった残りの火炎が,下流域で"浮き上がり火炎"として再度安定化して,全体消炎が簡単に達成されない場合がある.そのため,ゴム風船のように2段階で消火ガスを火炎へ供給することができれば,第1の流れで火炎基部を局所的に消火し,その後,安定化した浮き上がり火炎に第2の流れで消火ガスを再度供給して全体消火をより効率的に達成できる可能性がある. そこで,ゴム風船消火に関してもレーザシート法を用いてゴム風船に充填されたガスの流れの可視化を行う.そしてPIV法による流速測定も行う.それらの結果からゴム風船消火の消火機構を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
ゴム風船から放出される不活性ガスの流れ場を解析するために,PIV法による速度測定を行う.そのために,PIV解析用のソフトウェアが必要であり,それを購入する予定である.平成24年度では,このPIVソフトウェアの購入に多くの研究費を充てる.
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