研究課題/領域番号 |
23651160
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
鳥飼 宏之 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (50431432)
|
キーワード | 消火 / 火災 / 減災 / ゴム風船 / 不活性ガス / プール火炎 / 拡散火炎 / カプセル消火 |
研究概要 |
消火ガスとしてヘリウムを用いてゴム風船消火実験を行った.消火対象にはn-ヘプタンを用いた.従来,不活性ガスの消火効果はCup-burner法によって決定される.その場合,不活性ガスの消火効果の大きさはモル比熱の大きさに依存する.ただし,ヘリウムに関しては熱伝導率が大きく,その効果も加わりモル比熱の値が小さいにもかかわらず窒素と同等の消火効果を示す.他方,ゴム風船消火では窒素,アルゴン,二酸化炭素を用いて実験した結果,その消火効果が各ガスの熱容量の大きさに依存することを明らかにした.この結果は,Cup-bu-ner法で得られる不活性ガスの消火特性と同様である.しかし,熱伝導率の大きさが消火効果の大きさを決めるヘリウムをゴム風船消火で用いた場合,他の不活性ガスに比較してどの程度の消火効果を示すかは不明であった. 実験の結果として,火炎の大きさつまり燃料容器径の大きさによって,ヘリウムは他の不活性ガスとの相対的な消火効果の大きさが変化することがわかった.つまり燃料容器径に依存して,ヘリウムが窒素よりも低い消火効果を示す場合,窒素と同等の消火効果を示す場合,そして,窒素よりも大きく二酸化炭素と同等の消火効果を示す場合が存在することがわかった.このことは,ヘリウムの熱伝導率を密度と比熱の積で除した熱拡散係数の値が他の不活性ガスに比して大きく消火効果に影響していると考えられる.つまり,破裂したゴム風船から消火ガスが火炎へ供給されるゴム風船消火では,不活性ガスの流れの速度と乱れが大きく,このような流れの非定常性がCup-burner法に比べて強い.そのため,ヘリウムのように熱拡散係数の大きな不活性ガスでは,消火対象の大きさによってゴム風船の膨らみ具合や破裂過程が変化し,それに依存して変わる流れの状況によって消火効果の大きさが消火対象の大きさによって異なったと考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゴム風船消火では,不活性ガスに窒素,二酸化炭素,アルゴンを用いると,それらの消火効果の大きさが各ガスの熱容量の大きさによって決定されることがわかっている.他方,ヘリウムを用いた場合,熱容量だけでは結果が整理できず,ゴム風船から放出される流れの状況が熱拡散係数の値が大きいヘリウムのゴム風船消火特性に影響していると考えられる.このように不活性ガスの熱物性や輸送係数の影響と伴に,ゴム風船から放出される流れの状態によっても消火効果が変化することを明らかにしてきている.そこで,ゴム風船から放出される不活性ガスの流れの可視化に現在取り組んでいる.そのゴム風船の破裂過程と充填された不活性ガスの放出過程を調べるためには,幾つかの技術的な工夫が必要である.まず一つは,ゴム風船の破膜過程は数ミリ秒で完了するため,高い能力の高速度カメラが必要となる.この高速度カメラについては,すでに使用の目処がついており,高速で生じるゴム膜上の亀裂の進展,ゴム膜の収縮,そして充填ガスの放出という一つ一つの物理過程を詳細に観察することが可能である.また光源についても,それらの高速現象を可視化するのに十分な半導体レーザーの使用にも目処が立っており,流れの可視化についても問題は無い.更に,流れの粒子画像を取得した後の画像解析用のPIVソフトの使用についても目処がついている.現在,それらの機器とソフトウエァを組み合わせて,ゴム風船から火炎へのガス供給過程の撮影および解析を行っている.これらのことは,当初計画していた通りの研究進展状況であり,おおむね研究は順調に進展していると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
消火ガスとしてヘリウム,アルゴン,二酸化炭素そして窒素,また,消火対象を形成する液体燃料としてヘプタン,ブタノールそしてエタノールを用いて,ゴム風船消火の消火特性を調べてきた.これからは,ゴム風船の消火特性を決定する,ゴム風船消火の消火機構について解明することを目的とする.そのために,ゴム風船の破膜過程そして破裂したゴム風船から放出される不活性ガス挙動,また供給された消火ガスの流れによる消火過程での火炎挙動を詳細に観察し,定量的に調べる必要がある.ゴム風船の破膜過程と,消火過程の火炎挙動については高速度カメラを用いた直接撮影により調べる.他方,破裂するゴム風船から放出される流れについては,レーザーシート法による可視化を行う.可視化用のレーザーには2Wの半導体レーザーを用い,散乱粒子にはネブライザーによって霧化したシリコンオイルを用いる.この可視化像を高速度カメラで撮影し,この画像をPIV解析ソフトウェアによって速度場の算出を行う.それらの結果を基にゴム風船消火の消火機構を明らかにする. また,これまでの消火実験では10 cm程度の容器径が最大であった消火対象のスケールを,数十cm程度まで増加させて,ゴム風船消火の消火特性および消火機構についてのスケール法則を実験から導くことを目的とする.そのために,取り扱いが簡単ではない液体燃料の火炎では無く,気体燃料を用いた火炎を消火対象として用いる.
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費は次のことに使用することを計画している.消火ガスである,ヘリウム,アルゴン,窒素そして二酸化炭素の購入,そして,消火対象を形成するための燃料である,液体燃料のn-ヘプタン,気体燃料のメタンそしてプロパンの購入を計画している.また,気体燃料の火炎を形成するためのバーナ装置の作製のための,材料購入費にも使用する.更に,数十cmの規模の対象を消火するためのゴム風船の購入にも充てる.また,これまでに得られた結果を発表するために,学会への参加そして論文投稿費にも使用する.
|