放射冷却などで氷点以下の低温状態にある積雪表面が過冷却霧に覆われた場合、過冷却水摘の付着によって表面霜の結晶成長が急速に進行し、表層雪崩のすべり層となりうる薄い弱層が雪面に形成されることが考えられる。本研究はこの過程を低温室内実験及び積雪寒冷山地での現場観測から実証することを目的とした。 超音波加湿器で発生させた過冷却微水滴を雪表面に供給し表面霜の発達を促す低温室内実験から、雪の表面状態により形成される霜の結晶に違いが生じ、雪面が降りたての新雪状態か、大気中の過剰水蒸気が昇華凝結して小さいながらも既に表面霜が形成されている状態であれば、過冷却水滴の供給により表面霜が成長・発達することがわかった。 この実験結果は、過冷却水滴の付着によって表面霜の結晶成長が急速に進行し表層雪崩のすべり層となりうる薄い表面霜の弱層が雪面に形成されるためには、特別な気象条件の組み合わせが必要なことを示している。すなわち、放射冷却で大気中の水蒸気の昇華凝結により雪面に表面霜が形成された後、またはrimingの少ない結晶表面が滑らかな新雪の堆積直後に濃密な過冷却雲に覆われて、過冷却水滴が積雪表面の雪や霜に付着・凍結すれば表面霜が急速に発達すると考えられる。こうした特別な気象条件の組み合わせで成長した表面霜上に大量の新雪が堆積した場合のみ、表面霜を弱層とする表層雪崩は発生しうる。 従って気象推移には発達した表面霜の形成直後に多量降雪が必要であることから、表面霜を弱層とする表層雪崩の発生は、頻度的にかなり限定されると考えられる。そこで、本研究を始める契機となった2006年2月に発生した秋田県仙北市乳頭温泉での雪崩災害現場近傍にある気象観測所の過去の気象データを分析した結果、表面霜の急速成長後の大量降雪という気象条件の組み合わせは、この雪崩災害が発生した時にしかない極めて稀な気象推移であることがわかった。
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