集中豪雨や地震によって発生した大規模土石流から村落を防御するため,自然の地形を活かし土石流の本質を利用した具体的な防御方法を提案し,実験と計算によるシミュレーションを行って,その防御システムの実現可能性と有効性を検証した. 砂粒子を含まない重力流でも障害物と衝突した直後の挙動が実験と計算で異なることから,粒子群の状態の再現性に関する実験における問題とは別に,密度の不連続界面における流束の計算精度が重要な問題であることがわかってきた.そのため,サブグリッドの不連続面を認識する機能を備えたサブグリッドモデルを対流項の離散化に適用することによって計算精度の向上を図った. この新しいスキームを用いて,障害物と干渉する際の重力流のエネルギーの変化を計算した結果,障害物が重力流を流れに沿って上下方向に分断することによって,エネルギーの前方への供給率を大幅に減少できることが明らかになった.また,分断による重力流の厚さの減少に伴い,位置エネルギーから運動エネルギーへの変換過程が大きな影響を受け,後方からのエネルギーの供給率が大きく減少するとともに,障害物との相互干渉による大規模な渦の発生によって粘性散逸の割合が増加した.以上の結果,土石流が障害物と干渉することにより,発達した土石流がもつ衝撃的な荷重による破壊力を激減させることが可能であることが明らかになった. 底面から離れた水平な平面的な構造物の場合,その建設は容易であり,また,平常時には生態系等,環境への負荷をかけない.このような単純な障害物であっても,土石流の発達段階に応じて適切な位置に配置することによって,土石流による破壊力の大半を分散させることが示された.本研究で提案するこのような防御方法は技術的にも経済的にも実現可能な有効なシステムであり,大型化する土石流から人の生命や財産を守るための一つの手段と考えられる.
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