研究概要 |
α1,6フコースはα1,6フコース転移酵素(Fut8)により生合成され、最近話題を呼んでいる抗体医療のADCC活性(抗体依存性細胞傷害活性)や肝がんの特異的マーカーであるフコシル化α-フェトプロテイン(AFP-L3)と深く関わっており、注目される糖鎖の一つである。また、肝がんにおいてはα1,6フコースの発現は上昇すると報告されたが、その意義に関しては全く不明である。正常の肝蔵においてはFut8の発現が低いため、Fut8と肝細胞増殖との関連性についての研究は殆ど行われてこなかった。最近、申請者らは、本研究グループしか持っていないFut8欠損マウスを用いて肝再生能を検証した。その結果、野生型やFut8ヘテロマウスに比べFut8ホモ欠損マウスの部分肝切除後の肝再生能が有意に低下している。Fut8の発現は部分肝切除後の肝再生過程の初期のみに有意的に上昇し、肝再生の後期に正常状態に戻る。面白いことに、Fut8の発現誘導は、肝再生の促進と抑制シグナルの切換え時期と重なっている(Wang, Y., et al. 投稿中)。最近、申請者は、α1,6フコースは肝がんにも重要な役割を果たしているとの仮説を立て、Fut8欠損マウスを用いて検討した。驚くことに、化学誘導性肝がんの実験モデルマウスでは、野生型に比べFut8欠損マウスの肝がん誘発が著しく抑制されることを見出した。今後、α1,6フコース糖鎖と肝がんとの関連性およびその分子機構を明らかにすると共に、新たな肝がんのマーカーおよび治療法の開発に繋げることを目指す。
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