転写を担うポリメレース(RNAPII)間と転写関連の蛋白質群からなる転写ファクトリーの形成過程とその熱力学および情報処理のメカニズムの解明をめざし、以下を推進した。1)RNAPIIの運動状態を決定する方程式を求め、2)実験データと比較して方程 式が成立することを確かめ、さらに、3)最適なパラメータを精密に決定した。早期に達成したブレークスルーから、RNAPIIの運動を流れとして定義することで、イントロンとエクソンでのRNAPIIの速度の差が小さいときは自由流れ、大きくなると渋滞をともなった流れになること、その物理的なパラメータの条件等、熱力学および情報処理のメカニズムの一端を明らかにした。この成果は米国物理学会誌Physical Reviewに投稿し受理された。 次に、転写ファクトリーの形成に必要なヒストンの可動状態をRNAPIIのジャンプ確率で表現する数理モデルの構築を行った。このジャンプ確率によって熱力学を表現する自由エネルギーは表現できること、さらにジャンプ確率が時間変化していくことでファクトリーの形成が表現できることから、ファクトリーの形成過程とその熱力学および情報処理のメカニズムの解析のための簡単ではあるが一般的な表現を確立した。200k以上の長い遺伝子の実験結果を用いて、転写の初期過程における具体的なジャンプ確率を評価し、ヒストンの可動状態を考慮しつつ様々な物理量を求め、従来では説明できなかった実験結果をより定量的に説明した。この結果を論文としてまとめ、Physical Reviewに投稿し受理された。この成果に関してアウトリーチ活動を行った。輸送過程の表現を数学的により簡潔にした論文を京都大学数理解析研究所で発表しその講究録に受理された。所期の成果は達成したと考えられるが、さらに非線形性や周期性に関しても新規の結果を得ており、現在鋭意投稿を進めている。
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