タンパク質の構造ゆらぎに応じて、タンパク質の分子内構造エネルギーと溶媒和自由エネルギーもゆらぐ。本研究の目的は、エネルギーゆらぎを相互作用成分ごとに分割して相関解析を行うことである。用いたタンパク質はhorse heart cytochrome cであり、溶媒として純水だけでなく、尿素ー水混合溶媒も検討した。タンパク質にはAMBER力場、尿素には水との混合の熱力学挙動が優れているKBFFモデルを用いた。自由エネルギー計算はエネルギー表示法で行い、全原子モデルでのタンパク質丸ごとの自由エネルギー計算を行った。前年度までの解析によって、純水中での水和自由エネルギーのゆらぎと溶質ー溶媒相互作用のゆらぎが強く相関し、純水から尿素ー水混合溶媒への移行では、移行自由エネルギーと移行エネルギーが強く相関することを見出した。この結果に基づいてエネルギーの相関を考察し、溶媒が純水の場合、エネルギーゆらぎを支配する成分は静電相互作用であり、残基ごと・2次構造ごとに解析すると、空間的近接が重要な役割をすることを明らかにした。また、純水から尿素ー水混合溶媒への移行の場合は、静電相互作用ではなく、van der Waals相互作用が支配的な寄与をすることを定量的に示した。本年度は、前年度からの繰越しとして、排除体積効果の解析を行った。排除体積項は、溶媒和エネルギーの一部ではない。エネルギー表示法の枠内では、溶媒和自由エネルギーは、溶質―溶媒2体エネルギー上の積分として書かれるが、この積分を、大きな値以上のみに制限することで、排除体積効果を評価することができる。排除体積項は、溶質ー溶媒相互作用や移行エネルギーと異なり、残基ごと・2次構造ごとの和と表すことはできないが、溶媒和自由エネルギーおよび移行自由エネルギーとの相関は小さく、相関解析ではマイナーであることが分った。
|