研究課題/領域番号 |
23651206
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
竹川 薫 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50197282)
|
キーワード | 分裂酵母 / 遺伝子削除 / 物質生産 / ミニマムゲノム |
研究概要 |
本研究は「大規模に遺伝子が削除され、遺伝子発現制御機構の解析や異種タンパク質生産などの様々な研究に適用可能な分裂酵母モデル実験株の創製」を目的としている。これまでに作製した第1および第2染色体の末端に近い部分を削除した株(約660kb削除株)について、様々な培地を用いて生育について調べた。その結果、細胞形態に若干の異常は認められ、生育速度もやや遅くはなるが大きな問題は生じていないことが明らかになった。また、一連の操作で得られた各種染色体大規模削除株を宿主として、モデルタンパク質を用いた物質生産評価を実施した。モデルタンパク質として、緑色蛍光タンパク質(EGFP)は細胞内におけるタンパク質合成効率、一方、ヒト成長ホルモン(hGH)とヒトトランスフェリン(hTF)にはN末端にシグナル配列を付加し、タンパク質合成効率に加えて分泌効率も評価した。合成培地(EMM)におけるEGFPタンパク質合成効率は削除サイズを増やすごとに高くなり、最終的に660kb削除株は野生株の約1.7倍生産量が高まることがわかった。以上の結果は、生育速度や物質生産能を損なうことなく、染色体長を短くすることができた最初の報告例であり、これらの成果は国際誌であるNucleic Acid Researchにアクセプトされた。また最近、分裂酵母の必須遺伝子に関する新たな報告(Nat. Biotechnol.28, 617-623, 2010)があり、我々の仮想必須遺伝子染色体マップの再検討を行った。その結果、各染色体で削除可能な領域が複数存在することがわかり、この領域の削除株を作製中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が取得した大規模遺伝子削除株に関する論文が国際誌Nucleic Acids Research(Impact factor 8.026)にアクセプトされた。分裂酵母のゲノム配列を詳細に解析して、大規模に遺伝子を削除可能な領域がさらに特定できたため、今後はこれらの領域と既に削除できている領域をあわせることで、さらに大規模な分裂酵母遺伝子削除株の作製が可能であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
最近、共同研究者の久留米大学の佐藤博士が分裂酵母の第1と第2染色体を融合させた株の取得に成功した(Sato H et al. Curr. Biol. 22, 658-667, 2012)。本株は第1と第2染色体を融合させた時にテロメア近傍の領域が既に削除されている。そこでこの株を供与いただき、現在大規模遺伝子削除を試みている。この株から野生株と同様に遺伝子削除を行うことにより、さらに100kb以上の遺伝子が削除された株を創製することが可能になり、遺伝子削除がさらに進むことが期待できる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度も本経費は主に遺伝子削除用のためのPCRプライマー合成と塩基配列決定のための試薬類に使用したいと考えている。
|