研究課題/領域番号 |
23651207
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中山 二郎 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40217930)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / アレルギー / 腸管免疫 / 次世代シークェンサー / 16S rRNA / 前向き調査研究 |
研究概要 |
近年、腸内細菌が宿主免疫系に与える影響について大変興味が持たれており、多くの研究がなされている。しかし、実際のヒト腸管では、100種を超える細菌が宿主免疫系とcall and responseを繰り返しながら複雑に相互作用しており、どの細菌がどのタイミングでどの程度定着するとどのように宿主免疫系が影響を受けるかについての詳細は不明な点が多い。そこで、本研究では、実際のヒト乳幼児において前向き調査研究を行い、実際にアレルギー発症を助長している腸内細菌、あるいは逆に、アレルギー発症抑制に働く細菌の候補をリストアップし、それらの細菌についてex vivoあるいはマウスモデルを用いた研究において、具体的にどのように宿主免疫系に影響を与えているかを調査することを計画している。平成23年度は、新生児232名を対象とした前向き調査研究で、生後1か月後の糞便細菌叢と生後2年間のアレルギー発症状況の関連性を調査した。糞便細菌叢についてはアレルギー発症児71名と非発症児56名の糞便サンプルを次世代シーケンサーによる細菌16S rRNA遺伝子アンプリコンの大量配列解析により解析した。その結果、バクテロイデス属細菌がアレルギー発症児に有意に多いこと(p=0.001)、逆に大腸菌群がアレルギー非発症児に多い傾向(p<0.1)にあることが判明した。今後、この2菌群をex vivoあるいが動物実験に供することで、それらが実際にヒト腸管免疫系に与えている影響を詳細に解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際のヒト乳幼児100名以上を対象にした前向き調査研究により、後のアレルギー発症を助長している可能性の高いバクテロイデス属細菌と、一方、アレルギー発症を抑制している可能性の高い大腸菌群を突き止めることができた。平成24年度以降に、この両候補の細菌を用いて、ex vivoあるいは動物実験により着実に、それらの細菌が具体的にどのような分子機構により宿主免疫系の発達に影響を与えているか明らかにしていくことができると期待される。よって、全体研究計画の第一段階のハードルはクリアすることができたと考えられ、概ね順調に本研究計画が進められていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
実際のヒト乳幼児による前向き調査でリストアップされた、後のアレルギー発症を助長する悪玉菌候補「バクテロイデス属」と抑制する善玉菌候補「大腸菌群」について、保存菌株機関や、実際の乳幼児から自ら細菌を分離して、それらに該当する菌株を複数種ずつ準備する。そして、それらを動物の各種免疫細胞に作用させ、そのレスポンスを分子レベルで解析したり、ノトバイオートマウスに単一定着させ、そのマウスの免疫系の発達を詳細に解析するなどして、それらの細菌が宿主免疫系発達に及ぼす影響について分子レベルで明らかにすることを計画している。特に、本研究で興味がもたれる点は、大腸菌群はまさしくリポポリサッカライドによる宿主免疫系の刺激が強い細菌の代表と思われるが、それの刺激により、後のアレルギー発症が抑制されるという事実は、過剰衛生説を支持している点である。さらに、同じくリポポリサッカライドを有するバクテロイデス属細菌がなぜ逆のアレルギー誘因に働くのか、そのあたりの分子機構を解明することで、大腸菌群によるアレルギー発症の抑制メカニズムの真相を突き止められるのではないかと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、次世代シークェンサーによる糞便細菌叢解析に独自のバーコードタグ法などを利用することで、他の研究プロジェクトのサンプルと同時解析することで大幅なシークェンシングコストの節約ができたため、物品費の執行率を30%にとどめることができた。これらで節約できた経費も含めて、次年度は、経費が比較的嵩む、ex vivo実験やノトバイオ―トマウスを用いる研究に予算を執行するとともに、糞便細菌叢の解析についても、さらにリード数を多くするディープシークェンシングを行い、予算を執行していく予定である。
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