研究課題
近年、腸内細菌が宿主免疫系に与える影響について大変興味が持たれており、多くの研究がなされている。しかし、実際のヒト腸管では、100種を超える細菌が宿主免疫系とcall and responseを繰り返しながら複雑に相互作用しており、どの細菌がどのタイミングでどの程度定着するとどのように宿主免疫系が影響を受けるかについての詳細は不明な点が多い。そこで、本研究では、実際のヒト乳幼児において前向きコホート調査を行い、実際にアレルギー発症を助長している腸内細菌、あるいは逆に、アレルギー発症抑制に働く細菌の候補をリストアップし、それらの細菌についてex vivoあるいはマウスモデルを用いた研究において、具体的にどのように宿主免疫系に影響を与えているかを調査することを計画している。平成23年度に、生後1か月時においてバクテロイデス属細菌がアレルギー発症児に有意に多く、逆に大腸菌群が少ない結果が得られたので、平成24年度は、この両菌のリポポリサッカライドを精製し、マウスパイエル版の樹状細胞に対する、各種サイトカインの生産誘導活性を調べた。しかし、これらの2菌種の間に有意なサイトカイン誘導活性は見られなかった。また平成24年度はさらに、近年、宿主免疫系との関連性が注目されている、Akkeramansia muciniphilaの便中の存在量を、同コホートの糞便サンプルを用いて定量的PCRにより定量し、後のアレルギー発症と関連性について有意差検定を行った。その結果、1か月時の糞便サンプルにおいて、アレルギー非発症児に多い傾向(p<0.009)であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度に得られた実際のヒト乳幼児における腸内細菌叢と後のアレルギー発症の関連性に関する前向きコホート調査の結果を鑑みて、平成24年度は、アレルギー発症児と非発症児の間で有意差が見られた、バクテロイデスと大腸菌群の免疫担当細胞に対する活性を、ex vivo試験で調査した。残念ながら、活性に有意差が見られなかったが、25年度は、さらにin vivo動物試験にも供し、展開してきたいと考えている。一方、今回新たに、定量PCR法による定量解析により、近年、宿主免疫系との関連性が注目されている、Akkermansia muciniphilaの比較定量解析を行い、本菌がアレルギー発症児に少ないことを見出すことができた。
①平成24年度に完全に終了した前向きコホート調査のデータを完全に整理し、腸内細菌叢と後のアレルギー発症の関連性について、多角度から解析を行い、後のアレルギー発症要因となっている可能性のある細菌についてのデータマイニングを再度行う。②上記にて、有意差が確認された細菌種を中心に、樹状細胞に対する免疫刺激活性をex vivo試験により解析する。③さらにin vivo動物試験により、免疫寛容の誘導能を調査する。④Akkermansia muciniphilaについても②および③を可能であれば行う。
①平成24年度に完全に終了した前向きコホート調査のデータを完全に整理し、腸内細菌叢と後のアレルギー発症の関連性について、多角度から解析を行い、後のアレルギー発症要因となっている可能性のある細菌についてのデータマイニングを再度行う。データ整理のためのハードディスクを新たに購入する必要がある(10万円)。シーケンスデータについて、不足分を再解析するために次世代シーケンサーの試薬代金が新たに60万円程度必要となる。②上記にて、有意差が確認された細菌種を中心に、樹状細胞に対する免疫刺激活性をex vivo試験により解析する。本実験については、東京大学農学生命科学研究科の八村准教授の指導の下に行う。そのため、東京大学に学生を帯同し出張る必要がある(旅費10万円)。
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Bioscience of Microbiota, Food and Health
巻: 32 ページ: in press
九州大学中央分析センター報告
巻: 30 ページ: 30-35