研究課題/領域番号 |
23651208
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉宗 一晃 日本大学, 生産工学部, 准教授 (50325700)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 超好熱古細菌 / アーキウィルス / DNAシーケンス解析 |
研究概要 |
他の生物細胞に感染して自己を複製させるものをウィルスといい、真性細菌に感染するウィルス(ファージ)や真核生物に感染するものは古くから多くの研究が報告されている。しかしながら真性細菌や真核生物とは異なるドメインに属する古細菌、特に80℃以上に生育至適温度を持つ超好熱古細菌に感染するアーキウィルスの報告例は世界で数例しか無い。本研究では80℃以上の温泉試料からこれらアーキウィルスもしくはその宿主となる超好熱古細菌を単離し、それらの遺伝子を網羅的に解析する。今年度は80℃以上の高温の温泉から試料採取を行った。具体的には北海道伊達市北湯沢温泉町(85℃)、大分県別府市の自然湧出温泉5箇所(90~95℃)から試料を採取した。この試料をアミコンウルトラフィルターYM100で濃縮し、ウィルス及びその宿主を濃縮した。この濃縮資料からゲノムDNA精製キットを用いてDNAを抽出し古細菌の16SrRNA遺伝子増幅に適したプライマーセット(Ar109f及びAr912r)を用いてその遺伝子増幅を試みた。一方、この試料を遠心分離(6000rpm)した上清をオートクレーブした培地で2ヶ月間培養し、その培養液からDNA抽出を試みた。採取した試料から遺伝子増幅を試みた結果、1.6kb程度のPCR産物が増幅されたものの、そのDNA配列を決定したところいずれも16SrRNA遺伝子ではなかった。このことから採取した試料中にごく限られた種類のDNAは含まれていることが予想できた。このためクローンライブラリーを作成しなくても試料中の遺伝子を同定できる可能性があることが明らかとなった。しかしながら16SrRNA遺伝子を増幅できていないため、今後も引き続き80℃以上の温泉から試料を採取するとともに、採取した試料についてもプライマーの配列を変えて16SrRNA遺伝子増幅を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに80℃以上の超好熱古細菌しか生育しにくい環境から試料を採取した。この試料中DNAのクローン化を試みたものの、これらの試料からクローンライブラリーを効率よく作成できなかった。しかしながらクローンライブラリーを作成しなくても適切な組み合わせのプライマーを用いればDNAシーケンス可能な単一の遺伝子を増幅できることを明らかにした。この理由として常温の環境試料と比較して高温環境では試料中のDNAの種類が非常に少ないことが予想された。この方法を用いればライブラリーを作成することなく当初の計画にある試料中の遺伝子の網羅的解析も可能になる。現在はライブラリー化せずに直接遺伝子を増幅し、DNAシーケンスし遺伝子情報を蓄積している。今年度の研究において採取した試料から超好熱古細菌の16SrRNA遺伝子を効率良く増幅できていない点が唯一当初の計画から遅れている。今後はPCR用プライマーの検討や採取する試料の濃縮方法を検討することで成功する可能性が高まると期待できる。試料からPCRによって遺伝子を増幅できていることから培養困難な超好熱古細菌が存在していると予想されるため、培養を進めていくことで超好熱古細菌が生育する可能性もまだ残されている。温泉試料を80℃でそのまま培養する実験も進めていく。以上のことから実験方法に若干の修正点はあるものの概ね順調に実験計画が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
一般的に環境中には多種多様な微生物およびそれらが持つDNAが存在するためDNAシーケンスの解析には解析可能な純度に高めるためにクローンライブラリーの作成が必要となる。しかしながら平成23年度の研究によって80℃以上の温泉サンプルならば生育する微生物の種類が少なく、ライブラリーを作成しなくても適切なプライマーを用いることでPCRを行うだけでDNAシーケンス可能な純度で特定の遺伝子を増幅できることが明らかとなった。このため今後は現在同定した遺伝子配列を基にプライマーをデザインし、ライブラリーを作成することなくDNAシーケンスを進めていく。これによって超好熱菌だけが生育する可能性の高い80℃以上の温泉試料中に存在するDNAの解析を進める。本研究で16SrRNA遺伝子を効率良く増幅することに成功していないが、この遺伝子増幅のためのプライマーセットの最適化や、さらなる試料の採取によりこれら遺伝子を増幅させDNAシーケンスを行うことが可能であると期待される。さらに現在培養中の試料を用いることで生育した超好熱古細菌から容易にその遺伝子をPCRによって増幅できることが期待できる。今後は80℃以上の温泉から得られた試料の濃縮方法を変えて試料中の遺伝子解析を行う。具体的にはDNAaseで有利のDNAを分解後、ウィルスしか通過しないフィルター(例えばYM-100)を用いてウィルスを濃縮することでウィルス遺伝子の濃度を高める。この試料から上記の方法でPCRにより遺伝子を増幅し、DNA配列の解析を行なっていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
超好熱古細菌が生育していると予想される80℃以上の温泉からの試料採取をさらに続ける。さらに大分県別府市の80℃以上の温泉試料にはDNAが相対的に多く含まれていたため、この試料を再び採取する。これによって超好熱古細菌とそれに感染するウィルスだけが存在する試料の採取を試みる。この目的のために旅費を100千円計上する。またこれまでに得られた試料中のDNAを解析するために必要な一般遺伝子工学試薬及びDNAシーケンス試薬を購入する。
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