研究課題/領域番号 |
23651212
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大島 吉輝 東北大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00111302)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 糸状菌 / 二次代謝物 / エピジェネティクス / 培養 |
研究概要 |
本研究は、エピジェネティックな遺伝子発現制御を利用して、糸状菌や植物カルス細胞などの様々な生物資源に潜在する未利用生合成遺伝子の発現を誘導し、多様性に富む新規天然物を創出することを目的とする。そのために、HDAC阻害剤およびDNAメチル化酵素阻害剤を用いた化学的手法の確立を試みた。初めに、糸状菌の二次代謝物の組成変化を指標として、各種酵素阻害剤の有効濃度および使用方法について検討した。その結果、HDAC阻害剤である SBHA が多くの糸状菌の二次代謝物産生の多様性創出に有効であることを見出した。さらに、本手法を昆虫寄生糸状菌に適用し、Torrubiella luteorostrataより新規トリプトファン誘導体、Cordyceps indigoticaより新規芳香属ポリケチド類、C. annullataより新規ジヒドロベンゾフラン類の取得に成功した。また、糸状菌の培養時にSBHAとDNAメチル化酵素阻害剤RG-108を同時添加することで、Isaria tenuipesより四環式の新規骨格を有するポリケチド、Gibellula formosanaより側鎖に22,23-cis-エポキシドを有する高度に酸化された新規エルゴステロール類や新規isariotin類の取得に成功した。このように、本手法が多様な新規物質取得にきわめて効果的であることが示された。今後、本手法をAspergillus、Penicillium、Acremoniumなどの有用物質生産菌が多く含まれる属の糸状菌、あるいは植物カルス細胞などの生物資源に適用することで、さらなる新規有用物質の取得を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、糸状菌より既に20種以上の新規二次代謝物を創出した。これらの新規二次代謝物の多くは新規骨格を有する化合物であることから、本研究はケミカルスペースの拡大に繋がる結果を示した。 本研究で開発した手法をより広範な生物資源に適用することにより、きわめて多様性に富む天然物が産生される可能性を示した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)糸状菌の二次代謝物の探索 SBHAやSBHAにRG-108を組み合わせた条件が、多くの糸状菌の二次代謝を活性化させるのに有効であることを見いだした。この条件を用いて、バイオリソース保存機関より入手可能な昆虫寄生糸状菌、植物内生菌の二次代謝物を探索する。阻害剤非添加時と比較して、二次代謝物の生産が顕著に活性化されているものから順次大量培養し、新規成分を単離構造決定することで、多種多様な新規二次代謝物を創出する。さらに、本研究科附属薬用植物園で栽培されている薬用植物より植物内生糸状菌を分離し、これらについても酵素阻害剤を用いた条件にて培養し、多種多様な新規二次代謝物を創出する。(2)薬用植物カルス細胞の二次代謝物の探索 薬用植物は医薬品のソースとしてきわめて重要である。上記の手法を人参、甘草など、既に有用な成分を提供している薬用植物からカルス細胞を調製し、それらカルス細胞の培養に上記の手法を適用し、新規有用物質の創出を目指す。(3)有効阻害剤条件のさらなる検討 HDAC阻害剤にはZn2+もしくはNAD+を利用して加水分解する2つのタイプが存在する。れまでの研究において、Zn2+型HDAC阻害剤であるSBHAが多くの糸状菌に有効であることを見いだしている。本研究では新たにNAD+依存型HDAC阻害剤の有効性の検討を行う。糸状菌二次代謝の活性化が見られた条件に関しては、上記の生物資源の新規二次代謝物の創生に取り入れ、さらに多種多様な新規二次代謝物の創生に繋げる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
生物資源の培養に無機試薬、有機試薬を使う。生物資源が産生する各種二次代謝物の確認、単離、構造決定には種々の試薬が必要となる。また、生物資源の培養から構造決定に至る全ての過程でガラス機器が必須である。また、本研究で得られる成果を日本薬学会をはじめとする学会で発表するために旅費が必要となる。 なお、次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成24年度請求額とあわせ、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
|