本研究は、糸状菌をはじめとする真核生物に潜在する二次代謝物生産に関係する未利用生合成遺伝子をエピジェネティックに発現させ、多様性に富む新規天然物を創生し、新規医薬品リードの探索源としての天然物ライブラリーを拡充するものである。ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) やDNAメチル化酵素の阻害が遺伝子発現を上昇させるように、遺伝子の発現はヒストンのアセチル化やDNAのメチル化状態によって大きく左右される。 HDAC阻害剤にはZn2+型とNAD+型の2種が知られている。われわれは、昆虫寄生糸状菌の二次代謝物プロファイルが、SBHAのようなZn2+型HDAC阻害剤の添加培養によって大きく変動することを見い出し、培養液から多数の新規天然物を単離した。本研究では、昨年度の結果を発展させ、これまで使用されていないNAD+型HDAC阻害剤の糸状菌二次代謝物生産における有用性を実証した。すなわち、昆虫寄生糸状菌のChaetomium mollipiliumをnicotinamide添加条件下培養し、そこから炭素数13の新規ポリケチドmollipilin類を単離し、構造を決定した。 加えて、本研究科附属薬用植物園で栽培されるニチニチソウからPenicillium属糸状菌を分離、培養し、その培養液からカビ毒citreoviridinに加え、その生合成前駆体である新たなピロン環化合物を単離した。さらに、citreoviridinとは異なる経路によって生合成される新規化合物を得ることにも成功した。
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