昨年度は、DHFRの阻害剤であるトリメトプリム(TMP)を蛋白質リガンドのモデル化合物として採用し、これを細胞膜内膜(iPM)に局在化させるための基本分子設計の確立を目指した。種々の検討の結果、ミリスチン酸-グリシン-システインからなるリポペプチド骨格を局在化モチーフとして利用することで、iPM上に自発的に局在化するiPM局在性TMPリガンド(iPM-TMP)を創製することに成功した。また、このiPM-TMPを培地に添加することで、細胞内に発現させたDHFR-GFP融合蛋白質を細胞質からiPM上へと局在移行させられることを実証した。更に、DHFRにAktのキナーゼドメインを融合した場合(DHFR-Akt)、iPM-TMPによってDHFR-Aktおよびその下流経路が(局在移行によって)コンディショナルに活性化されることを確認した。 本年度は、上記の成果を発展させ、iPM上で進行するさまざまなシグナル伝達経路を活性化するシステムの構築を進めた。まず、低分子量G蛋白質RacのGEFであるTiam1をDHFRに融合した蛋白質(DHFR-Tiam1)を設計した。DHFR-Tiam1を発現させた細胞では、iPM-TMPの添加によってDHFR-Tiam1が細胞質からiPMへ移行し、内在性Racを活性化することで細胞運動(ラメリポディア形成)が引き起こされることを実証した。また、脂質キナーゼであるPI3Kを改変することで、iPM-TMP応答性PI3K(DHFR-PI3K)を作成した。DHFR-PI3Kを発現した細胞では、iPM-TMPの添加によって脂質セカンドメッセンジャーの一つであるPIP3が産生することを確認した。以上のように、蛋白質リガンドの細胞内精密局在化という戦略によって、さまざまな細胞内シグナル伝達経路の活性化システムを構築することに成功した。
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