本研究は、「プラズマ援用生体物質結晶化」といった挑戦的萌芽技術の確立を目的としたものである。タンパク質や核酸といった生体物質の立体構造を解明することは、それらの機能の理解へとつながる。つまりは、生物の持つ神秘の追及や、新薬の開発などにおいて、非常に強力な知見となりえる。生体物質の立体構造解析において、その結晶構造解析は、最も強力な手法の一つであるものの、“結晶化しない”・“結晶の質が不十分”等の要因から、結晶化プロセスは多くの生体物質の立体構造解析におけるボトルネックとなっている。そこで本研究では、安価かつ簡便な大気圧非平衡プラズマを用い、そのボトルネックの解消に取り組むものである。 モデルタンパク質である卵白由来リゾチームを用いた実験において、プラズマの短時間照射によって結晶化が大きく促進されることを本研究グループが発表している。そのメカニズム解明から、本技術の適応指針を得るため、構造が比較的簡単であることや、脱色の過程から反応速度を見積もることができるといった利点から、メチレンブルー等の色素を対象とし、プラズマ照射が与える影響を観察した。 各種pHに対する実験から、メチレンブルーにおいては、脱色速度の大きなpH依存性は見られなかった。一方、オレンジGはpH依存性を示し、色素ごとに異なるpH依存性が見られた。pH依存性の他に、緩衝液に対する依存性も見られ、電導率の影響と考えている。また、処理後のメチレンブルー溶液に対し質量分析を行ったところ、プラズマの照射によるダイマー等の生成は確認出来なかったが、メチル基が外れた質量に対応する物質が観察された。 本挑戦的萌芽技術の適応においては、生体物質が置かれる溶液環境が大きく影響するという知見を得た。また、結晶化の促進には、プラズマ照射による有機物質の一部変性が影響しているものと考えられる。
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