研究課題/領域番号 |
23651219
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷 俊治 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (00127276)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | グルタミン合成酵素 / 窒素同化 / 蛋白質工学 / 活性中心 |
研究概要 |
植物の独立栄養機能の代謝過程の根幹に位置するグルタミン合成酵素(GS)は、アンモニアをATP依存的にグルタミン酸に付加してグルタミンに変換する。この反応は植物の生育に必須であり、本酵素の阻害剤であるフォスフィノスリシン(PTT)等は除草剤として広く使用されている。我々は初めて植物のGSのX線結晶構造を解明し、立体構造情報をもとに基質特異性や4次構造を変化させた改変体の研究を進めることにより阻害剤に対する感受性が鈍化した分子種の創出が可能であることを見出した。この知見をもとに阻害剤耐性の優れたGSを新たに創出することを目標とした。 立体構造に基づいてGSの構造・機能相関を解明する目的で、活性中心近傍の改変を開始した。γ-リン酸基がPTTに転移した状態がグルタミン酸のリン酸化中間体に対応し、水素結合等を介してPTTと相互作用する残基をまず改変した。これらを改変した分子は活性が大きく変化した。His249の改変体を網羅的に作製し、活性と阻害剤の有効濃度を調べたところ、活性を保持した改変体の中でPTTに対して耐性が10倍程度増強したものが見出された。 GSの活性中心の位置は2リング間の接触部位とは物理的に離れており、リング間相互作用は活性中心形成には直接的な関与はないと思われる。しかし、変異体F150Gでは1リング、2リング構造の両方が発現し、ともに基質Gluに対するKmがWTの約50倍の増加が観察された。また、網羅的なアラニン変異導入法によってどの領域が基質親和性の低下と関係しているかを調べたところ、基質の出入り口付近とリング間結合部位の直線上にKmを増大する残基が集まっていることが判明した。このことはリング間の結合部及びその周辺が基質認識に対して直接的もしくは間接的に何らかの寄与をしている可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H249QとF150V, G241A, W243Aの3種類のGS変異体の構造・機能解析が順調に進展しており、以下の新知見が得られている。 これらの改変体では、共にグルタミン酸に対する親和性が低下するが、阻害剤の感受性には明瞭な差があり、前者のみが野生型より阻害効果が著しい。全ての変異体の結晶構造を明らかにすることが出来ており、 F150V, G241A, W243Aの3種類の変異体の基質親和性の低下は活性中心以外の構造変化によると結論された。これらを総合するとグルタミン酸の親和性に関与する領域は活性中心に加え、活性中心から離れた場所にも存在すると予想される。その場所はリング結合領域からグルタミン酸の活性中心への入り口に跨ってマップされていた。 これらの成果は、本研究の目指すGSの基質やその類縁体(阻害剤)の認識機構に関して新知見をもたらしたもので、国際結晶会議で発表した。1年目の達成度としてはおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)前年度に引き続き、改変体の評価・選別は行う。酵素反応の特性と構造解析のデータをまとめる作業を行い、GSの構造機能相関の論文として公表する。(2)アスパラギン合成酵素も植物では窒素代謝に重要な役割を果たしており、本酵素の分子生理学的解析を、GSと関連つけながら行う。このことにより、グルタミンとアスパラギンの2つの転流アミノ酸がどのような機構でバランスが保たれているのかあきらかいにし、本研究が植物生理学的にも重要な位置づけになるよう努力する。(3)PTT耐性が十分獲得された分子種やアスパラギン酸をアンモニアの受容体として利用する分子種が得られれば、研究室に常時動いているArabidopsisの形質転換系を利用して植物に導入する。まずは35Sプロモータで発現を試みる。外来GSの発現と活性を調べる。また、PTT感受性のドース依存性を調べるために、この阻害剤濃度を変えて合成寒天培地上で多くの個体の発芽生育実験を系統的に行う。おそらく耐性の程度が異なる複数のラインが取得できるはずである。これらは後に土壌試験へと進む。土壌で育てた植物体を用いて個体レベルでのPTT耐性能の評価を行い、酵素分子レベルでの耐性との対応関係を明らかにする。表現型に有意な差異がある植物ラインが取得できたら、窒素同化系に着目した代謝系解析を行う。現段階ではどのような表現型になるかはっきりと予想出来ないが、窒素栄養条件を考慮しながら窒素同化系の酵素・蛋白質の発現や代謝中間産物やアミノ酸の組織内含量を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究経費の大部分は試薬や実験器具等の購入のための物品費に充当する。また、目的とする物性を備えた変異体の取得には、ルーチンワークをこなす人手が必要であり、研究室に新しく配属された学部生や大学院学生を一時的なアルバイトして雇用する謝金にも充当する。
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