研究課題/領域番号 |
23651231
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺井 琢也 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00508145)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 分子認識 / バイオテクノロジー / 有機化学 / ケミカルバイオロジー / 化合物ライブラリー |
研究概要 |
平成23年度は、アビジン結合分子の探索に向けた評価系の開発とスクリーニングを実施した。以下、それぞれの概要について説明する。1.蛍光偏光法を用いた評価系の開発研究代表者らによる予備的検討の結果タンパク質のビオチン結合ポケットに弱く結合することが見出されているdiMe-biotinに対してリンカーを介して蛍光団(fluorescein)を修飾した化合物を合成した。続いて、アビジン存在下において化合物の蛍光偏光が上昇すること、およびビオチン添加によりこの上昇が抑制されることを確認した。更に、スクリーニングへの展開を念頭において化合物濃度やタンパク質濃度、インキュベーション時間、DMSO濃度など様々なパラメータを変化させ、384穴プレートにおける最適な評価条件を設定した。2.化合物ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニング1.の結果を受け、東京大学創薬オープンイノベーションセンターから提供された化合物(およそ160000)を用いて、アビジン結合小分子の一次スクリーニングを行った。この実験においては得られる測定データが膨大であったため、コンピュータにより自動で適切なデータ処理を行うプログラムを作成した。一次スクリーニングの結果、平均値より4SD以上の変化を示した化合物をヒットと判定し、再現性試験へと進めた。ここで再現性が得られた化合物に関しては濃度依存性試験を行い、およその結合定数を決定した。これらの実験の結果、当初の狙い通りアビジンに対して結合能を有する天然ビオチン以外の骨格を取得することに成功した。今後の構造変換により、目標である「ビオチン添加により溶出可能な"程良い"結合力を有する人工ビオチン」や「光や酵素などの刺激存在下においてのみ複合体が形成される"機能性"人工ビオチン」の創製が可能になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、「評価系の開発」ならびに「化合物ライブラリーを用いたスクリーニング」を実施した。蛍光偏光アッセイ用のプローブ分子の開発は非常に順調に進行した一方で、384穴プレートを使った大規模スクリーニングは、研究代表者らにとって経験が浅い分野であったこともあり条件検討に想定以上の時間がかかった。また、化合物ライブラリーの他の利用者と機器を共有している問題から、必ずしも研究代表者の希望通りのスケジュールでアッセイが実施できるとは限らなかった。しかしながら、結果的には上記の困難を克服してスクリーニングを年度内に無事に終了できたため、全体としてみればおおむね順調な進捗状況と判断されよう。更に、23年度の最大目標であった「新規アビジン結合分子の発見」を達成できたことは、24年度以降の研究につながる重要な研究成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、得られた化合物が(ストレプト)アビジンに対して特異性を有しているかを確認すると共に、構造活性相関の精査を通じてより優れた化合物の設計と合成を目指す。具体的には、細胞ライセートや血清中での結合試験、ライブラリー内にある構造類似体に対するアッセイなどを行う。また、(ストレプト)アビジンについては代表者ら自身の研究によって化合物結合時の立体構造が明らかになっているため、コンピュータによるドッキングモデルの作成やX線結晶構造解析による結合様式の解明と、その知見に基づく論理的な分子設計も積極的に導入していく方針である。これらの実験の結果、nM以下のオーダーで特異的に結合する誘導体が得られれば、阻害剤として知られている薬剤を結合させてアフィニティー精製へと応用したり、蛍光団を導入して抗体染色へと応用することで、従来の天然ビオチンに対する新規分子の優位性を示していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、ヒットとして得られた分子の誘導体合成、および、X線結晶構造解析(大阪大学、SPRING-8との共同実験)やSPRによる結合様式の解明を行う計画である。従って、研究費の用途としては「有機合成試薬」、「生化学実験消耗品」、「共同実験のための旅費」、「成果発表・情報収集のための学会参加費」が主になる予定である。ここで、23年度において「次年度使用額」が生じたのは、必要な消耗品費、特に化合物の購入費用が当初の想定よりも若干少なかったためと、共同研究の打ち合わせをメール等で行った場合が多かったことにより旅費が少なかったためである。なお、これは金額として大きなものではないため、24年度の使用計画に影響を与えるものではない。
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