研究課題/領域番号 |
23651232
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑中 研一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (70167584)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | アルキルラクトシド / 糖脂質 / 細胞 / 診断分子 / 糖鎖生合成 / シアリル化 / GM3 / 診断 |
研究概要 |
先ず、最適な診断条件を確立することを目的として研究を行った。ドデシルラクトシドを細胞培養の培地に添加すると、細胞内に取り込まれ、ゴルジ体に輸送された後、糖転移酵素の作用で糖鎖伸長が起こり、再び細胞膜を通過して細胞外に放出される。細胞への取り込み、ゴルジ体への輸送、糖転移反応の有無、細胞外への放出、という4つの過程それぞれについて要する時間を測定した。培地中へのドデシルラクトシド(診断分子)の添加から一定時間後の細胞画分と培地画分の化合物組成を分析することにより、診断に要する時間を推定した。取り込みに要する時間は、細胞内のプライマー濃度変化から推測した。ゴルジ体への輸送は、蛍光ラベル化合物を用いたが、細胞質にも移動したため、対策を検討中である。また、糖転移反応に関しては、細胞画分と培地画分の糖鎖伸長化合物の時間変化量から推定した。本年度はB16メラノーマ細胞を用いて行った。さらに、放出速度に関しては、細胞画分と培地画分に存在する糖鎖伸長化合物の比の時間変化によって推測した。 次に、薬剤投与における細胞の糖代謝異常を診断分子で測定した。病変のモデル系として酵素阻害剤などの薬剤を投与した細胞を用いて、ドデシルラクトシドの「細胞診断分子」としての可能性を探った。GI-1細胞、ONS-76細胞、MDCK細胞、Cos7細胞、RERF細胞などの細胞培養系に、酵素薬剤を投与し、前述のドデシルラクトシドの同時投与により、糖鎖伸長の変化を観察した。薬剤を投与した群と投与していない群でのドデシルグリコシド画分のHPTLCプロフィールを比較することにより、薬剤投与による影響(細胞の糖代謝異常)を測定することに成功した。 さらに、糖タンパク質糖鎖の異常合成を診断することも検討した。細胞にドデシル(N-アセチルグルコサミニル)マンノシドを投与して、ジストログリカン糖鎖の形成を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、病変細胞に「細胞診断分子」を投与することによって、病変細胞の糖代謝異常に関する知見を得、診断に用いることができるかどうかについて検証する。また、薬剤投与と同時に「細胞診断分子」を投与することによって、細胞に対する薬剤の副作用をより明確に観察する手法を開発する。研究期間内には、細胞内における糖転移酵素の機能異常を診断する方法を確立することを目的としている。 本年度は、上記目的に沿い、診断分子の細胞内への取り込みを観察し、糖鎖伸長された分子を細胞外へ放出するまでの過程を追うことに成功した。また、種々の化合物を用いた疑似病変とも言える細胞における糖鎖合成異常に関しても観察することに成功した。さらに、N-アセチルグルコサミニルマンノシドを用いて、ジストログリカン糖鎖の合成を観察した。 以上の結果より、研究はおおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
【フルオラスグリコシドを用いて診断する】ドデシルラクトシドの炭化水素(ドデシル基)の一部をフルオロアルキル基で置き換え、同様の分析を行うとともに、より簡便な診断法について検討する。フルオロアルキル基は「フルオラス性」という特殊な性質を持ち、水とも有機溶媒とも混合しない。そのため、細胞などの生体試料から得られる複雑な混合物からの単離精製が比較的容易である。本研究では、フルオラスグリコシドを投与した細胞培養の培地から得られた糖鎖伸長生成物の分離を、フルオラスアルコールによる抽出またはフルオラスシリカゲルによる極小カラムクロマトグラフィーにより行う。この方法でのサンプル調整が可能となれば、HPTLCの前処理が極めて簡素化される。また、ハイブリッドタイプの長鎖アルキル基を用いて、フルオロメチル基の疎水性を評価する。通常、フルオロカーボンはハイドロカーボンと混合しないが、両親媒性の化合物同士が混合することを利用して、ハイブリッドタイプの長鎖アルキル基を有するオリゴ糖(ラクトシド)を用いて、フルオロメチル基の疎水性を評価する。その結果、細胞膜を自由に出入りできる細胞診断分子として最適の長さのフルオロアルキル基を求める。次に、フルオロアルキル基が実際に診断に使えるかどうかを確かめるため、フルオラスに変えたことによる糖鎖伸長効率など(取り込み速度など)を検討する。【ガン細胞の転移性を診断する】ガン細胞が転移する要因の一つに、血流中のガン細胞が血管内皮細胞と糖鎖-糖鎖相互作用して速度を緩めることが挙げられる。本研究では、ヒト各種臓器ガンの細胞にドデシル N-アセチルグルコサミニド(細胞診断分子)を投与し、糖鎖-糖鎖相互作用を生み出すルイス型糖鎖の合成量について調べ、正常細胞との生産量を比較する。また、実際の転移性ガン細胞について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の遂行に必要な研究設備として、化合物の同定などは600MHzNMR(現有設備)およびLC-MS(現有設備)で行う。また、細胞培養は現有のクリーンベンチおよびCO2インキュベーターで行う。従って、本研究費で購入予定の設備備品はない。 消耗品費は、分離用の逆相クロマトゲルやイオン交換カラムの他、原料となる糖鎖などの試薬および細胞培養用の試薬・器具に用いられる。 国内旅費は国内研究者との研究打ち合わせ(情報収集)、国内学会における調査・研究旅費として用いられ、外国旅費は国際シンポジウムにおける調査・研究旅費として用いられる。具体的には、2012年7月にスペインのマドリードで開催される国際炭水化物シンポジウム(ICS2012)に出席、研究発表を行う予定である。
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