動物の腸管内には、多くの細菌が常在しており、腸内フローラと呼ばれている。この腸内フローラは健康状態(アレルギーや感染症など免疫システムへの影響など)と深い関わりがあるといわれており、腸内のどこにどのような細菌が存在しているのかを明らかにすることは重要な意味をもつ。しかしながら、これまでの分析法では、排泄物サンプルからの培養や遺伝子断片増幅による菌株の推定が主なものであり、いつどこにそれらの細菌が存在しているかを特定するのは難しかった。本研究では、プローブ分子を腸内細菌にその場で取り込ませ、可視化するという新しい手法に挑戦した。大腸菌をはじめとするグラム陰性菌の外膜には、菌株によってさまざまな構造をもつO抗原糖鎖部位をもつリポ多糖がある。このO抗原糖鎖の違いを利用して、株選択的にラベリングすることを試みた。大腸菌O157(実験には毒素非産生株を用いた)のO抗原糖鎖に含まれる特徴的な糖の前駆対誘導体に、ラベル化に使える官能基をつけたものを合成し、これを含む培地でさまざまな細菌を培養することによって、O157だけを選択的にラベル化できるかを検討した。フローサイトメータによる蛍光強度解析の結果、実験した細菌のうち、O157だけがラベル化されたことがわかった。次に、ラベル化した細菌からリポ多糖を精製して、リポ多糖部位がラベル化しているかどうかを調べた。リポ多糖部位がラベル化されていることを確かめることができた。この結果はChemBioChemに投稿しアクセプトされた。本研究は、動物の腸内細菌を株選択的にライブイメージングするための手法として、発展が期待できる。
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