抗体医薬は、小分子ではほとんど効果のない疾患の治療に有効性を示すことがあるため、その医療応用に期待が集まっている。特に、がんや自己免疫疾患などでは、すでに抗体医薬の臨床における実用化がなされており、目覚ましい成果をあげつつある。一方で、中枢神経疾患では、神経細胞選択性に欠けることや血液脳関門を通過しないなどの問題があり、抗体医薬の臨床応用には壁があるというのが現状である。本研究では、これらの問題を解決する第一歩として、神経細胞に選択的に導入されるペプチドを利用した新しい蛋白質導入法に関して検討した。 まず、蛋白質を神経細胞に導入するためのペプチドとしてRabies virus糖蛋白質由来ペプチドRVG29に着目した。このペプチドを蛋白質に修飾することで、その修飾蛋白質が神経細胞に導入されるかを検討した。RVG29でEGFP表面を化学的に修飾した蛋白質を調整し、マウス神経芽細胞腫由来細胞Neuro-2aと非神経細胞であるHeLa-S3にそれぞれ投与した。その結果、Neuro-2aの細胞内から選択的にEGFP由来の蛍光が観測された。この結果から、RVG29の修飾により蛋白質が神経系細胞に選択的に導入されることを示した。 次に、RVG29がニコチン性アセチルコリン受容体に結合することに着目し、同受容体に結合する一連のペプチドを合成することで、新規神経細胞キャリアの探索を行った。これらのペプチドに蛍光色素をつなぎNeuro-2aとHeLa-S3に添加し蛍光観察を行ったところ、すべてのペプチドについてNeuro-2aに対する選択性が示された。新たに合成したペプチドのうち19アミノ酸からなるペプチドは、Neuro-2aの細胞内から蛍光が観測され、その他のペプチドは細胞膜上のみから蛍光が観測された。この19アミノ酸ペプチドで修飾したEGFPを、Neuro-2aに添加したところ、修飾蛋白質は細胞内に導入されることが明らかとなった。以上の結果から、本研究において、神経系細胞選択的に蛋白質を導入する方法が開発され、また、新たな神経細胞導入キャリアの開発に成功したといえる。
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