前年度までに、アクリジニウムアミド構造を有する蛍光プローブがクロライドアニオンに対する良好な衝突消光型のセンシング能を見いだし、さらに細胞内のクロライドアニオンの蛍光イメージングに有用であることを明らかとした。しかしながら、この蛍光プローブは細胞膜非透過性であり、細胞バイオイメージングにおいては、パッチクランプを用いて細胞内へと導入しなくてはならない。この点を改善するため、アクリジニウムアミド蛍光プローブに対して膜透過性を高める構造変換を行なった。その結果、脂溶性のFmoc (9-fluorenylmetyloxycarbox-amide)基がプローブの細胞内導入に有効である新たな知見を得た。すなわち、アクリジニウムアミド構造にジスルフィド結合を介してFmoc基を有する誘導体は、HeLa細胞やHEK 293 細胞の膜を透過し細胞質に移行するが、細胞質中では高濃度のグルタチオンの作用によりジスルフィド結合が還元されフリーシステインチオール型となる。この状態で蛍光プローブは、水溶性が高いため再び膜透過性を失い細胞内に貯留する。実際にFmocを有するアクリジニウムアミド蛍光プローブを試験管内にて10 mMのグルタチオンで処理すると5分以内にフリーシステインチオール型へ完全に変換されることが確認された。また、系中にて生じたフリーシステインチオール型プローブはオリジナルのアクリジニウムアミド蛍光プローブとほぼ同程度のクロライドアニオンに対する蛍光センシング能を有することが確認された。今後、膜透過性プローブの細胞内クロライドイオンの可視化解析への応用が期待出来る。
|