研究概要 |
本研究課題では、研究代表者らが発見した親電子性のシグナル分子である8-nitro-cGMPをモデルとして、内因性硫化水素による親電子物質とのユニークな反応を詳細に解析することにより、生体内の親電子シグナルの本態を解明することを目的とした。高速液体クロマトグラフィー-質量分析を用いて硫化水素と8-nitro-cGMPの反応機構を解析した結果、硫化水素と8-nitro-cGMPを反応させると、脱ニトロ化反応により、新規環状ヌクレオチドである8-SH-cGMPを生じることが分かった。また、硫化水素は15-deoxy-Δ12,14-prostaglandin J2や4-hydroxy-2-nonenalなどの各種親電子物質と反応することも明らかになった。硫化水素関連物質を生成することが示唆されているシスタチオニンβ-シンターゼ(CBS)やシスタチオニンγ-リアーゼ(CSE)をノックダウンした各種培養細胞(A549ヒト肺がん細胞、HepG2ヒト肝がん細胞、C6ラットグリオーマ細胞など)では、8-nitro-cGMPによるタンパク質翻訳後修飾(S-グアニル化)が著明に増加した。さらに、その分子機序を詳細に調べたところ、システインやグルタチオンのチオール基に硫黄原子が付加したパースルフィド(R-S-SH)が8-nitro-cGMPの代謝とS-グアニル化の制御に関与することが示唆された。以上より、生体内においてCBSやCSEにより生成する硫化水素関連物質(パースルフィド)は、8-nitro-cGMPなどの親電子性シグナル分子と反応することにより、細胞機能制御に関わっていることが示唆された。
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