本研究は、湖沼や池の底泥に生息するユスリカ(オオユスリカとウスイロユスリカ)幼虫が、その捕食者である外来魚の匂いを学習した結果、捕食者の匂いのみで被食回避行動を示すかどうかを明らかにすること、さらにはその学習した幼虫を成虫まで飼育しその卵から生まれた幼虫が、外来魚の匂いに対する忌避反応を示すかを明らかにすることを目的としたものである。23年度はオオユスリカ幼虫を用いて実験をした。当該幼虫を外来魚および在来魚それぞれの匂いが付いた飼育水(匂水)に暴露したところ、在来魚の匂いに対しては、泥の表面に体を出さない、捕食のリスクが高まる泥表面での滞在時間の短縮などの捕食回避反応を示した。一方で、外来魚の匂いに対しては一切の回避反応を示さなかった。 24年度は、最初に2種の累代飼育方法の確立を試みた。オオユスリカの場合、蚊柱を作って交尾行動をするため、大型ケージでの飼育を試みたが成功しなかった。一方でウスイロユスリカの場合は、閉所交尾をするため容易に累代飼育が可能であることが分かり、25℃の飼育環境下では約2週間で生活環を完了させることができた。この方法で実験室内で累代飼育した当該幼虫を用いて、次の実験をした。 水槽内に外来魚の匂水のみを入れるものと、それに幼虫をすりつぶした水(血水:仲間が捕食されていること意味する)を同時に入れるものの2通りで幼虫を飼育した。 その結果、餌と外来魚の匂水のみで飼育した場合、匂水に対して捕食回避反応を示さなかったが、匂水と血水で飼育した幼虫の場合、一部の幼虫は、外来魚の匂水を投与しただけで餌の探索時間が前者の半分以下となり、明らかな回避反応を示した。これは幼虫が外来魚の匂いを学習することを意味するものである。 今後は累代飼育を重ね、この捕食者の回避反応が獲得形質として長く次世代に引き継がれるかを確かめる実験を継続する予定である。
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