研究概要 |
1. 琵琶湖固有種ホンモロコの精巣由来細胞株(セルトリ細胞)の樹立精原細胞の樹立に先立ち、その維持、成熟生殖細胞分化に必要とされる精巣に存在する体細胞(セルトリ細胞)の樹立を行った。琵琶湖固有種であるホンモロコはコイ目、コイ科である。そこで同じコイ科に属するゼブラフィッシュのセルトリ細胞株の樹立、培養条件を参考にして細胞株の樹立を試みた。その結果、初期は順調に増殖するが、継代が進むと急激に増殖が落ち、増殖しなくなるという現象が見いだされた。そこで様々な増殖因子を添加し、ホンモロコ細胞が増殖可能な培養条件を見いだした。この方法で培養することにより、ホンモロコから精巣由来の細胞株樹立に成功した。樹立した細胞株の遺伝子発現を調べたところSox9a, WT1,等の精巣特異的遺伝子発現が認められた。一方でVasa, Ziwi等の生殖細胞特異的遺伝子発現は認められなかったことからホンモロコのセルトリ細胞株が樹立できたと考えられた。2. セルトリ細胞株樹立条件下における精原細胞の増殖条件の検討上記、精巣由来の細胞株樹立条件で培養するとセルトリ細胞の上に接着してコロニーを形成する精原細胞も培養初期に観察された。その増殖はある程度維持されたが継代を重ねるにつれてそれらの数は減少し、最終的に失われた。培養液にマウス生殖幹細胞(GS)の増殖に必要な因子GDNF, LIFを添加し、精原細胞の増殖を観察し、精原細胞樹立条件の検討を行ったが、体細胞の増殖が早く、生殖細胞培養には体細胞の混入を最小限にすることが重要であると考えられた。一方で精原細胞は常に体細胞の上に接着して存在したことからその培養にはフィーダーとしての体細胞が必要であることが示された。さらにセルトリ細胞株の樹立条件でホンモロコの受精卵由来の細胞株も樹立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.様々な時期におけるセルトリ細胞株の樹立と樹立したセルトリ細胞株をフィーダー細胞とした精巣の生殖細胞(精原細胞)の培養条件の検討および樹立ホンモロコは季節繁殖性であるため精子形成は繁殖期(4~6月)に限られ生殖細胞分化はほぼ同調していると考えられる。すなわち、非繁殖期精巣では精子分化は抑制されていると考えられ、維持に適した細胞が、繁殖期には分化を促進させるセルトリ細胞株が樹立できる可能性がある。そこで繁殖期、非繁殖期において精巣切片を作製し、精子の分化状態を調べると共に経時的にセルトリ細胞株の樹立を試みる。同時にこれらのセルトリ細胞株をマイトマイシンC処理により、増殖を阻害し、フィーダー細胞として用いる。この細胞の上で精巣から調整した精原細胞を培養する。この際、培養液にマウス生殖幹細胞(GS)の増殖に必要なGDNF, LIF,IGFなどの増殖因子を添加し、精原細胞の維持、増殖条件を検討し、生殖細胞株の樹立を試みる。2.ホンモロコiPS細胞の樹立哺乳動物iPS細胞樹立においてOct4,Sox2, Klf4,c-Mycは近縁種であれば良く、必ずしもその種由来である必要がないことがわかっている(マウスiPS, サルiPSはヒト由来の4因子ベクターを使用して作製できる)。そこでマウスまたはヒト由来4遺伝子Oct4,Sox2,Klf4,c-Mycベクターの導入を先行させ、魚類固有種でiPS細胞の樹立ができるか否かを試みる。具体的にはGFP等のマーカーを発現するベクターを用いて遺伝子導入条件の検討、至適化を行い、4因子の遺伝子導入実験を行う。
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