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2011 年度 実施状況報告書

過冷却状態を利用した新規凍結保存技術の基礎的研究

研究課題

研究課題/領域番号 23651249
研究機関武庫川女子大学短期大学部

研究代表者

吉田 徹  武庫川女子大学短期大学部, 食生活学科, 准教授 (00378952)

研究分担者 福尾 惠介  武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (40156758)
福田 満  武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (90098517)
研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード凍結保存
研究概要

本年度は、A. franciscanaの乾燥シストの水和時間を調節することによって様々な凍結感受性胚の作製を行い、水和凍結胚の凍結解凍後の孵化率を測定することによって正確な凍害評価法を確立した。また、この評価法を用いて各種凍結法による凍害評価実験の本年度計画を実施した。 具体的には、平成23年度の研究実施計画にもある通り、乾燥シストの水和時間を調節することで様々な凍害感受性胚を作成した。水和凍結胚の孵化率は、凍結耐性が速やかに失われるため、従来法である急速凍結の場合は0%であった。しかし、きわめて緩やかな緩速凍結により過冷却状態を作り出した場合は、ほぼ100%の孵化率を維持した。次に、水和時間を延長して過冷却凍結を行ったところ、6時間にわたる水和時間で孵化率60%、自然孵化時間に相当する24時間にわたる水和時間でも、孵化率は40%程度を示すことが分かった。これらの成果は、凍結速度により細胞が受ける凍結障害に大きな差が認められることを示す明瞭な成果である。一方、CASフリーザーによる磁場を印加した過冷却凍結法では、急速凍結より若干高い孵化率が得られているものの、緩速凍結による過冷却凍結を超える孵化率は今のところ得られていない。交付申請書にもある通り、電磁場印加による過冷却凍結については適正な条件設定が必須であり、今後はこれらのデータを受けて、定常磁場や過冷却専用庫を用いた凍結保存実験に取り組んでいく方針である。 本年度に得られた研究より、過冷却凍結を実現する極めて緩速な凍結速度による孵化率の大幅な改善が認められた。これらの成果は、A. franciscanaの水和凍結胚において、細胞もしくは組織レベルでの凍結障害が著しく軽減されたと考えられるため、今後は予定通り過冷却凍結の優位性を立証していく方針である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、従来の凍結手段で生じる氷晶形成や凍結脱水による凍結障害を減じるための、新規過冷却凍結保存技術の確立を目指した基礎研究を行うものである。初年度は、本研究の全体の遂行に必須な凍害評価法の確立が必須であったが、これについては、申請前からの入念な準備と必要な研究機器の導入も手伝い、無事に達成することが出来た。これらの成果は取りまとめ、欧文の雑誌論文(平成23年度研究成果参照)で発表し、国内においても学会発表(平成23年度研究成果参照)にて報告した。 初年度によって得られた結果は、凍結速度により劇的な孵化率の変化を認めたものであり、極めて緩速に凍結することによって達成できる過冷却凍結法が有効であることを示したものである。過冷却凍結を実現する極めて緩速な凍結速度による孵化率の大幅な改善が見られたことは、少なくともA. franciscanaの水和凍結胚において、細胞もしくは組織レベルでの凍結障害が軽減され、凍結胚の生存率の上昇に繋がったと考えられるため、交付申請書で記載した研究目的に沿った形で研究を進める方向性を確認できたことが大きい。 次年度において新たに開始する定常磁場による凍結と、磁場を発生しない過冷却専用庫での検証実験を行うと共に、過冷却凍結法による孵化率の変化データを説明するための示差走査熱量測定(DSC)による熱分析を予定通り実施する手順のため、現在までの到達度としてほぼ目標に達していると判断した。

今後の研究の推進方策

本研究を円滑に推進させるにあたっては、研究材料として選んだ小型水生節足動物A. franciscanaの発生胚を用い、実際に様々な凍結方法による凍害評価の判断を下せる凍害評価法を早期に確立する必要性があった。平成23年度でこの目的に合致したアッセイ系が完成し、予定通り各種凍結法による凍害評価データの回収を開始した。 過冷却凍結を実現する手段として、プログラムフリーザーにより凍結速度を厳密に制御することで実現する方法は、オーソドックスな方法であり、初年度において高い孵化率が測定され、相当の成果を上げることができた。しかしながら、CASフリーザーにより誘電効果による磁場下では、緩速凍結による孵化率まで達しておらず、温度制御による過冷却凍結によって孵化率の上限まで既に達していることが原因と見られる。また、製造元のアビー社は当初唱えていた過冷却状態の実現より、水分子による氷核成長の抑制効果を強調した説明へと力点を移している(BIO INDUSTRY 28, 5-13, 2011)。CASフリーザーによる電磁場の発生は、交流電流を電磁コイルに流すことによって発生する変動磁場が大きいと見られるが、本研究や他の機関による定常磁場を用いた凍結で一定の成績が得られていることから、次年度はCASフリーザー庫内において、ネオジム磁石を用いた定常磁場下での凍結実験を調べるよう修正する。また、磁場を全く発生しない過冷却専用庫(本研究で申請、導入済)でのコントロール実験も予定通り実施し、過冷却庫で作り出した過冷却温度別の植氷凍結を行った場合の孵化率の測定について調べていく方針である。さらに、平成23年度で得られた様々な凍結法による孵化率測定の実績を受けて、示差走査熱量測定(DSC)によって熱分析を予定通り実施し、胚内部の氷晶状態を調べていく。

次年度の研究費の使用計画

本年度より進めている様々な凍結方法による凍害評価実験を引き続き実施する。特に、電磁場エネルギーを利用したCASフリーザーによる凍結では、製造元のアビー社の仕様変更に基づいて、電磁場エネルギー発生の条件設定を、主として変動磁場によるものから定常磁場によるものへと変更する。電磁場エネルギーの条件変更は交付申請書にも記載しているが、電磁コイルへの電流量で制御する予定であったものが、ネオジム製永久磁石を多数配置する必要が生じたため、相応の研究費が必要となった。 次に、過冷却専用庫で作り出した過冷却温度別の植氷凍結を行う実験を平成24年度から新たに開始する。この実験では、植氷温度の厳密な制御が必要で液体窒素を消耗するが滞りなく実施していきたい。最後に、平成23年度から得られた様々な凍結法による孵化率の実績を裏付ける熱分析を次年度より開始するため、示差走査熱量測定(DSC)を行う予定である。凍結法による孵化率の違いが、胚内部の氷晶状態の違いを反映したものであるかどうかは重要な判断材料であり、凍結に伴う胚内部の自由水がどのような物理化学的状態にあるか(結晶化あるいはガラス化などの判断)を推定し、得られた実験データを解釈することは、本研究全体の学術的な精度を高める上でも重要な課題である。DSCによる熱分析は研究分担者が3人とも関わる予定であるが、凍結維持のために大量の液体窒素を消耗するほか、毎回高価な銀製パン(密閉カプセル)を必要とする。 これらの消耗費、小額器材費を賄うため、平成24年度の研究費が厳格に使われる予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2011 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] High Hatching rates after cryopreservation of hydrated cysts of the brine shrimp A. franciscana.2011

    • 著者名/発表者名
      Toru Yoshida, Yasuhiro Arii, Katsuhiko Hino, Ikuo Sawatani, Midori Tanaka, Rei Takahashi, Toru Bando, Kazuhisa Mukai, and Keisuke Fukuo.
    • 雑誌名

      CryoLetters

      巻: 32 ページ: 206-215

    • 査読あり
  • [学会発表] 異なる凍結速度によるA. franciscana凍結胚の孵化率推移とその氷晶状態

    • 著者名/発表者名
      鮫島由香、田中翠、山本遥菜、福田満、福尾惠介、吉田徹
    • 学会等名
      第34回日本分子生物学会
    • 発表場所
      横浜
    • 年月日
      平成23年12月13日~16日

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公開日: 2013-07-10  

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