研究課題/領域番号 |
23651258
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
米倉 雪子 昭和女子大学, 人間文化学部, 准教授 (60566389)
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キーワード | 国際情報交換カンボジア / 生計記録・改善 / Health (健康) / 有機農業 / PLA(参加型学習と行動) / NGO / 住民参加型 / 貧困 |
研究概要 |
この調査はAction Research on Livelihood and Health(ARLH:生計・健康アクション・リサーチ)と称し、カンボジアの研究協力者CEDACと農家の協力をえて2011年夏に始めた。しかしCEDAC調査補佐員が2012年3月末に辞任し、4月から新調査補佐員が任命された。生計記録活動は続けられたが、筆者が新調査補佐員に会えたのは、2012年8月7日~24日にカンボジアを訪れた時であった。二人目の調査補佐員は農民との関係づくりや活動の進め方に問題があったため、CEDACに交代をお願いし、三人目の新調査補佐員が任命された。筆者は2012年12月26日~2013年1月7日に再びカンボジアを訪れ、三人目の調査補佐員と会い、4村を訪問した。この間、生計記録シートの改訂も続けていた。 2013年2月11日~26日、筆者はカンボジアを再訪した。生計記録をつけることで、生計について生計記録ボランティアの理解が深まる様子が先発4村でみられた。 健康増進活動を実施する先発4村と比較するため、健康増進活動は行わないで生計記録だけをつける新4村を選び訪れた。新4村で生計記録の説明会を開き、過去、1年、生計記録をつけたボランティアに、生計記録を行なった体験と記録の仕方を説明してもらい、新たに生計記録を始める有志をつのった。新4村の説明会には各村で30-40人が集まった。生計記録を始めたい希望者は各村20人前後いたが、実際に記録を始める者は各村10人ほどではないかとCEDAC調査補佐員は予想している。 連携研究者と共に先発4村も訪れ、健康増進活動と生計記録活動を農民協会リーダーと共に実施した。先発4村でも生計記録の新メンバーをつのるため、各村で村人を対象に説明会を開き、過去1年、生計記録をつけた生計記録ボランティアに生計記録を行なった体験と記録の仕方を説明してもらった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果1.生計記録シートの作成。この調査は、対象者であるカンボジアの農家が、主体的に生計記録および健康増進活動に参加することを通して、自ら問題に気づき、問題の改善にとりくむAction(行動)をとること(行動変容)をめざしており、「主体的参加型学習と行動(PLA)」の一事例といえる。CEDAC調査補佐員が生計記録をつけ始めた生計記録ボランティアと共に、筆者の原案の生計記録シートを使いやすく役立つものに改善した。改訂された1年間の記録ができる生計記録シートが2013年の新サイクルから使われている。外部者である筆者が提案した原案を、生計記録シートを使う当事者である農家(生計記録ボランティア)とCEDAC調査補佐員が協同で改訂し、PLAの事例といえる。 成果2.生計記録を行なった農家が、無駄遣いをやめ、貯金や投資にまわすなど意識化と行動の変化が見られた。新4村で新たに生計記録ボランティアを募る際、生計記録を正確につけられた先発4村の生計記録ボランティアが自らの体験と記録の仕方を説明した。このように、NGOスタッフが説明をせず、有志の農家から農家へと紹介するように仲介することにより、農家が関心をもち実行できると感じて行動しやすくなる。また説明をする者(リソース・パーソン)が地域住民であるので、事業終了後も地域に人材が残るため、活動継続の可能性もあると期待される。 しかし課題も判明した。内戦のため成人の識字率が低いカンボジアでは、生計記録ボランティアにとって生計記録シートへの記入は困難をともなっていた。また疾病や村外への出稼ぎ他、様々な理由により生計記録を辞めるボランティアもいた。PLAでは、現地で仲介役と指導を担うCEDAC調査補佐員の能力が、活動の成否のカギを握るが、1年半ほどの間に2回も交代した。3人目の調査補佐員のような適任者が勤め続けてくれるか、も課題である。
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今後の研究の推進方策 |
生計記録シートを用いて1年間の生計記録をつけた18人の農家は2年目も記録を続ける。カンボジアの農家自身が自らの生計を1年にわたって記録した例は非常に稀である。農家は1年間に収穫した農産物の量・自家消費量・販売量、農業による収入、非農業収入、農業投資額、食費・教育費・治療費その他の支出、病気だった家族の人数と日数、固定資産、貯金や借金の増減などを確認できる。記録した農家も他の農家も、農業投資に対して利益があるか、出稼ぎも経費に対して利益があるか、参考にできる。 残された課題は主に三点ある。まず生計記録ボランティアの読み書き計算能力が弱い場合の対策が必要である。第二に、3人目のCEDAC調査補佐員のような適任者の継続的な確保が不可欠である。仲介役を担う調査補佐員の力量がARLHの成否を左右する。第三に生計記録ボランティアが出稼ぎや病気の治療を理由に生計記録を中断しないように対策をとる必要がある。 今後ARLHは、農民協会リーダーのみでなく、カンボジアの一般の農家にも改訂版の生計記録シートへの記録を試みてもらう。そして、生計記録が生計改善に役立つかどうかを農家と共に考察していく。さらにARLHのもう一つの柱である健康増進活動と並行して行うことで、栄養・健康増進と治療費や生計改善との関連を分析していく。また健康に不可欠な飲み水について、水質検査の実施やその結果をふまえ、安全な飲み水の確保の方法なども農家と協議していく。これらの活動と農家の行動変容、そして生計記録や栄養・健康増進の状況は、短期間では大きく変化しないかもしれない。よって今後も先発4村と新4村の生計記録ボランティアとして農家の協力を得て、1年間の生計記録データをとることが重要であろう。それを基礎データとして、2年目(2014年)以降の状況を分析して課題を認識し、改善策を考え協議していくことが肝要であろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
★国内旅費 打合会議旅費 10000円 ★外国旅費 往復航空券他 (1人x2回x100000円)200000円。調査レンタカ他(2回x5日x8000円)=80000円。首都内交通費(2回x10日x1000円)=20000円。宿泊費[2回x(1人x10日x5000円+3人x5日x1000円)130000円。計330000円 ★謝金など 研究協力(1人x7000x5日+5000x4日)x12ヵ月=66万円。調査協力/参加者60人x100x12ヵ月=72000円。計732000円 ★その他 調査用紙印刷5000円。健康教育教材5000円。通信費5000円。コピー代5000円。会議室借用料100円x8村x12ヵ月=9600円。会議茶菓100円x8村x12ヵ月=9600円。計39200円 ★消耗品 文房具10000円。計10000円 総計112万1200円
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