本科研費での主要な成果は、「論理教育における「論理」とは?― 「論理科」で育てるリテラシーに向けて ―」(『情報リテラシー研究叢書』)、および、「アリストテレスの様相論理体系はどこに向かうのか? ── 『前書』と『後書』のあいだ ── 」(『ギリシャ哲学セミナー論集』)である。 前者は、初等中教育における論理的思考のあり方を、認知科学的な知見も踏まえながら、試論的に展開したものである。これによって、現在種々の方法で提案されている「考える力」の原理について、論理・心理・倫理を貫通するソクラテス的思考の実践として捉え直すことができた。 後者は、文献学的かつ哲学的な学術研究としてアリストテレス『分析論前書』の論理構築の可能性を精査したものである。これによって、われわれの科学的思考がどのように論理的な枠組みのうえに形成されるものかを、本科研費のテーマでもあった時間的様相の視点から取り出すことができた。 脳科学の領域に踏み込んで直接の具体的な研究成果を挙げるまでに至らなかったが、これまで他機関の研究者とともに実施してきた「脳科学からの数学教育の実践」および「プログラミング教育と論理的思考」というテーマについては、学会発表を行ない、ひとつの見通しを得ることはできたので、今後さらに展開を試みる計画である。 また、本科研費の主題のひとつであった倫理的責任については、震災後の喫緊の課題を優先したこともあり、以下の共著、直江清隆・越智貢編『高校倫理からの哲学』第2・3・別巻(岩波書店)において、いわゆる「3・11以降」の課題として、その一部を展開するにとどまった。しかし、こうした一連の基礎作業によっても、とりわけ思考(論理)と心理との関係をめぐる脳認知科学の知見の有用性・可能性は再確認できた。
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