研究課題/領域番号 |
23652002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高山 守 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20121460)
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研究分担者 |
榊原 哲也 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20205727)
杉田 孝夫 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 教授 (40206412)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 自由 / 家族 / ケア / 子ども / 市民社会 / 韓国 / ドイツ |
研究概要 |
本研究は、哲学的基礎論を投影した家族論を展開するということだが、高山は、とりわけ、哲学的基礎論としての自由論に取り組みつつ、家族論への展開を試みた。すなわち、われわれ人間の自由とは、基本的に選択可能性にあるのだが、そうした自由を生きるとは、一つの生き方を選択することである。だが、それは同時に、欠如としてのもう一つ別の生き方を常に抱え込むことであり、そこに、プラトンの『饗宴』の神話にも通じうる他者欲求--つまり、家族希求--の淵源を見うると考え、その試論に着手した。また、それは、「子ども」論にも通じ、目下のドイツの政策的争点である「世話手当(Betreuungsgeld)」論を追った。榊原は、現象学的哲学の立場から、とりわけ「ケア」という視点において、「家族」の問題に取り組むために、従来の現象学的ケア理論を概観するとともに、「自殺に傾く人」とその家族との関係について、現象学的考察を行った。その結果、「自殺の危険の高い人の家族」には、(1)親自身も自分の親(子どもにとって祖父母)から「十分に自立できていない」、(2)夫婦間に「深刻で柔軟性に欠ける関係」が存在する、(3)「親の意識的・無意識的な感情が子供に投影され、柔軟性に乏しい慢性的な親子間の葛藤がある」等といった特徴があり、これらが家族的な「背景的意味」を形成していることが明らかとなった。杉田は、17世紀以来の家族と社会と国家の理論の近代的再編成の過程を個人主義の成立との関係でとらえ、カント、フィヒテ、ヘーゲルの婚姻論、家族論のなかにドイツにおける近代家族観の生成過程をコンテクステュアルに読み取れることを明らかにした。また、個人と国家との間に生じた二十世紀デモクラシーのパラドクスに着目し、個人を家族と市民社会と国家のトライアングルのなかにおいて、個人の自由の位相を反省的に見直し、家族の新たな可能性を見いだそうとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、徹底した哲学的基礎論に立脚して、「家族」の存在意味を基礎づけるということであるが、高山は、ドイツ近世哲学を基盤としつつ、現代英米哲学の提起する諸問題を取り込んだ自由論を、仕上げつつあり、それに基づく「家族」の存在意味論を展開しつつある。榊原は、フッサールの現象学をさらに展開つつ、「ケア」の議論を充実したものとし、「家族」の織りなすさまざまな「背景的意味」を明らかにしつつある。また、杉田は、ドイツ観念論の政治思想史研究を展開しつつ、その脈絡における「自由」の概念を追究し、「家族」の新たな可能性を明らかにしつつある。こうした点に鑑み、本研究は、おおむね順調に進展している、と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、当初の研究計画にそのまま則って進めたい。すなわち、高山は、哲学的自由論を踏まえて、「家族」の存在意義論を展開し、榊原は、フッサール、ハイデガーの現象学を基盤とする「ケア」論に基づき、「家族」の「背景的意味」という観点から「家族」論にアプローチする。杉田は、ドイツ観念論の政治思想史研究を踏まえ、現代の自由と家族をめぐる混迷した状況を突破する知の構築をもくろみ、さらに、われわれ三者で、新たな家族論を総合的に論じあげる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画も、当初の使用計画に則って進める。すなわち、物品費については、本研究との関連書籍、パソコン関連用品、事務用品等の購入に充て、旅費は、国内外の研究者との研究交流や研究打ち合わせ、国内外における研究発表や、国内外の研究者の派遣および招聘に当てる。人件費・謝金およびその他は、次年度に設定するシンポジウムや研究会における講演料、資料整理や資料交換、会場運営等に使用する。
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