研究課題/領域番号 |
23652005
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松阪 陽一 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (50244398)
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キーワード | 哲学 / 西洋哲学 / 言語哲学 / 言語学 / 意味論 / 語用論 |
研究概要 |
本年度の課題として、研究計画書には、① Frege並びにWittgensteinによる意味の心像説批判を再検討をすること、② 現代の認知科学、心理言語学、神経言語学の文献を精査し、発話理解と心像構築の関係について現在明らかになっている科学的知見を確認すること、③ ①と②の成果に基づき、FregeとWittgensteinによる批判の妥当な部分と矛盾しない形で、心像の構築が発話理解において果たす役割を明らかにすること、④ Grice並びに新グライス主義、関連性理論が提出する語用論的原理がもつ概念的基礎を批判的に吟味し、それらの原理を③の成果に基づいて再評価すること、これら四点を挙げ、実際にこれらを軸に研究を進めた。 しかし、研究の遂行過程で、言語哲学史上におけるフレーゲの見解の特異性を明らかにする必要が生じたために、ロックからヒュームに至るイギリス経験論において言語がどのように扱われたのか、特にロックの言語哲学を再検討するという作業に時間を費やした。その結果として、フレーゲ的な見解に対する代替説として、ロック的な言語観に立ち戻ることの有益さを再確認できたと考えている。 更にまた、本研究の目的は心像構築に基づく「語用論」を探求することにあるが、研究を進める上で明らかになりつつあることは、そもそも現在引かれている「意味論」と「語用論」区別自体が、かなりの程度フレーゲ的な見解を前提にしているということである。従って、上記の「ロック的」な言語観に立ったとき、これらの区別がどのように捉え直されるのかという問題についても、かなりの程度考察の時間を費やした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究が当初の研究目的に照らして、「やや遅れている」と評価せざるをえない理由は、メンタル・イメージを扱うことの難しさそのものに帰すことができる。メンタル・イメージが知覚や思考において果たしている役割は現在心理学や認知科学で盛んに研究され、また論争の対象にもなっているが、こうした研究の成果が現在まだ現在安定したものと見なされていないこと、更に、比較的安定した部分でも、それを直接言語に関わる現象と結びつけることには困難が伴うこと、これらが理由として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、何らかの研究成果をアウトプットとして出すことを第一の目的に考えている。このために、心的イメージをその細部において扱うことをいったん中断し、ある程度抽象化したモデルを設定し、そのモデルを用いて心的内容と言語との関係を扱うことを検討している。心的イメージを抽象化することにより、少なくも言語との接続は扱いやすいものになると考えられるからである。こうした作業がある程度の成功を収めれば、そのモデルをより心的イメージへと具体化する形で、理論の細部を埋めることができるのではないかと期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、研究費を主に次の四つの目的に使用して研究を遂行する予定である。 ① 認知科学や心理言語学、神経言語学関係の書籍代、② 資料収集のための旅費、③ 研究協力者や専門知識の提供者への謝金、④ 研究協力者や専門知識の提供者との会合、並びに成果発表のための旅費。前年度からの繰越金は、次年度に海外での学会発表を予定しているために生じたものである。
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