本年度は、当初の予定を修正し、心的イメージをその細部において扱うことをいったん中断し、ある程度抽象化したモデルを設定し、そのモデルを用いて心的内容と言語との関係を扱うことを目指した。特に、心的表象を抽象的な構造としてモデル化し、それを話者が言語化する際にどのような規則に従うと考えられるのかを見定めようとした。その結果、たんに語用論を際定式化するだけでは十分ではなく、従来の意味論的枠組み自体を改変することが必要であるという認識に至った。 「私」や「あなた」、「彼」等の人称代名詞の意味論を適切に扱うためには、これらの心的表象がどのような言語的規約に基づいて言語化されるのかを明らかにする必要がある。この課題は、本研究の当初の目標をある意味で超えるものであるが、こうした課題が必要であるという認識は、本研究から導かれたひとつの成果であると考えている。この課題に関しては、本年度中に十分な成果を得ることができなかったものの、次年度以降の研究計画「内的表象の言語化:意味論の再構築」(挑戦的萌芽研究、課題番号 26580004)で引き続き研究していく予定である。
|