研究課題/領域番号 |
23652009
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
佐藤 研 立教大学, 文学部, 教授 (00187238)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 坐禅 / 禅 / 見性 / 悟り / メディテーション / 癒やし / 公案 |
研究概要 |
(1)欧米で禅を指導した人々の著作の検討は、順調にすすんだ(山田耕雲、愛宮真備、鈴木俊隆、嶋野榮道など)。そうした著作の大きな特徴は、禅のいわば本質を人間学的に掘り下げているところにある。そこでは、儀式や言語の差もあまり問題にされない。(2)2011年夏に、ドイツと合衆国へ行き、三宝教団系の禅道場および同系の禅教師研修会に与り、参加者と関係者にインタヴューし、参禅の有様を観察した。またサンフランシスコ禅センター(曹洞禅)を視察し、関係者にインタヴューした。(3)東西霊性交流に関わってきた臨済禅の師家にインタヴューし、欧州で禅を教えることの問題を学んだ。(4)欧米では、坐禅は心身のバランスを崩した人に、医学的次元で坐禅がすすめられることがある。癒やしの一環として、坐禅が拡大応用されている。もっとも、日本の伝統的禅からすれば邪道かも知れないが、この意味のメディテーションの意義は、ほとんど確立されているようである。(5)刑務所において、受刑者の自己更正と自立を促す道として、イギリス、カナダ、ドイツにおいて坐禅が取り入れられている。これは社会的次元における新発展である。(6)とりわけ三宝教団系の禅堂では、日本の禅ではほとんど(特に曹洞禅は意識して)問題にされなくなった「悟り」の体験が称揚され、その体験の後も公案によってそれが深化される過程の指導がなされている。これはキリスト者でも起こる体験である。上の(1)であげた著作は、いわば思想として禅を語っているが、ここでは思想の把握ではなく、自分の身による体験が問題となっている。この点に、大きな変貌と可能性が潜んでいるように思える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年間の実地における観察で、おおきな「地図」が見えたと思う。禅は欧米において、日本では考えられなかったような医学分野や社会的分野(刑務所)などで人々を支える機能を話し始めた。さらには、日本ではもはやまともに受け止められなくなった「悟り」という体験知の次元が、真っ正面から問題にされてもいる。つまり、欧米では、そのまったく非「日本的」環境の中で、禅が「拡大」していると同時に、「原点回帰」をも遂げているという現象が見られると思う。こうした「地図」がすでに一年目に見えたことは肯定的である。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度は当初に計画したアンケートが、その項目の検討が終わらず、実行できなかった。三宝教団以外の団体の一定数にインタヴューしてから、有効な質問項目を決定するつもりでいたが、その一定数が思うように実現できなかったことによる。ただし、三宝教団の観察から、ほぼ普遍化できる項目が想定できたので、今年の夏にはアンケートを実施する。現地での観察を更に続ける。また、臨済宗のある師家が、(大変希有なことであるが)ドイツに幾つかの別院を出してヨーロッパ人の指導に当たっていることがわかった。この動きをより緻密に追跡し、上に掲げた「地図」がどう肯定されるのか、変更されるのか、観察したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
80万円のうち──国外・国内旅費:60万円。物品費:5万円。謝礼その他:15万円。
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