2013年度の調査で新しく判明したことは、臨済宗で欧州に支部や嗣法者を設けて活動している寺院や師家であっても、臨済宗・公案禅システムの全体を、欧州人の指導者たちがその参禅者にそのまま(翻訳の形で)適用することを許しているケースはほぼ存在しないことである。欧州人で臨済宗を修得して現地で接心等を主宰している者たちも、参禅者に与えているのは「数息観」等の一般的修行法にほぼ限定されている。唯一、公案体系を独自に翻訳して欧州に渡らせ、現地の禅教師を通じて参禅者に適用しているのは三宝教団系のグループである。三宝教団は、そもそも在家の運動であり、日本における巨大な僧侶組織があるわけではない。この運動の担い手がこれから20-30年後にどうなるかは予断を許さない。今のところ、臨済宗や曹洞宗との実質的な対話交渉は存在していない(北米では、三宝教団の母体である原田大雲-安谷白雲ラインおよびそれに近い一部の臨済系が、現地人の指導者に公案を与えること認めている)。 そこで結論的に言えば、次の様に言えよう。曹洞宗は「坐」にのみ集中し、僧籍の者を一定数欧米に措定することで日本の曹洞宗の出島を欧米に作成している。その活動はこれからもそれなりに存続するであろう。臨済禅は、特に欧州では十全な公案禅をその地の嗣法者に展開させることを控えることによって、いわば「半伝播」の次元に抑えて展開している。公案体系を翻訳実践させることによって、禅の完全伝播にむけて大きな実験を開始したのは在家禅の三宝教団である。「禅」が欧州及び北米にどのように生きて伝わり、どのように変貌していくのかは、これから20-30年間のとりわけ三宝教団の活動に注目することで一つの指標が明らかになるであろう。 以上の結論的認識は新論文に統合し、それを2015年発刊予定の『禅キリスト教の展開』(ぷねうま舎)に収録する。
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