研究課題/領域番号 |
23652010
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研究機関 | 公益財団法人中村元東方研究所 |
研究代表者 |
釈 悟震 公益財団法人中村元東方研究所, その他部局等, 研究員 (80270536)
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キーワード | 寛容思想 / 比較思想 / スリランカ仏教と他宗教の対話 / スリランカ平和思想 / 近代的寛容思想の限界 / 東南アジアの諸宗教対話 / スリランカ諸宗教共存 |
研究概要 |
平成24年度の当該研究は、先ずスリランカへ渡航し現地の調査研究による挑戦的萌芽的に研究を進めることであった。 具体的にはスリランカにおいて140年前に、前後5回行われたキリスト教・仏教との教理論争に関する五大論争地を順次訪ね、現在の宗教の状況ならびに共存関係などを調査しその課題を解明することといえよう。と同時に、五大論争の思想的意義、諸宗教間の対話の現況を含む宗教的意味などを中心に現地の専門研究者を訪ね総括的調査を実施し、今日的な課題を明らかにするため関連の大学における資料収集などをも行った。 結果として、①スリランカでは未だ「宗教対話」に関する意識が乏しく、今後においても宗教対話に関する必要性すら考えていない。②一方においては国の政策により、スリランカ歴史上、長く続けられてきた「仏教優先政策」がなくなり、他宗教との共存を選んでいる。③これらの現況を踏まえて、当該研究課題である「スリランカにおける宗教対話の基礎的研究」をより挑戦的進めるに欠かすことの出来ない基礎的資料として1899年行われた仏教とキリスト教双方が自らの宗教の優越性を主張するために国の許可を得て公衆の面前で行った「Urugodawatta Maha Vadaya」つまり「ウルゴタワッターにおける大論争」をスリランカ民族の伝統的言語であるシンハラ語から英訳し、原本であるシンハラ語と英訳を合本にしてスリランカにおいて出版した。埋没されているシンハラ本は実に64年ぶりの再版であると同時に、初英訳によってスリランカだけではなく、宗教対話の重要性を歴史的証言を通して世界に知らせられるに違いないと確信をしている。その実、日本やスリランカにおいて多くの反響を及んでいることからも知り得る実績といえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)スリランカのみならず世界的な宗教対話の基礎的研究に一助を与えるような前世紀において仏教とキリスト教双方が自らの宗教の優越性を主張するために国の許可を得て公衆の面前で繰広げられた「ウルゴタワッターにおける大論争」という当該研究課題に関する最も基礎的資料として欠かすことの出来ない重要なテキストを世界的普遍的言語として知られている英語に翻訳し公刊したこと。 (2)埋没されているシンハラ本が実に64年ぶり再版されたことにより、スリランカにおける「宗教対話の重要性」が今一度再起され、同国のみならず世界において宗教対話が真摯に進められる発信力を培養できる基礎的研究資料としての一端が一層可能になったこと。 以上の観点から当該研究課題の目標達成に、おおむね順調に進展しているといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度について釈はプロジェクトを総括すると同時に、スリランカで前世紀において激しく衝突した仏キ論争を始め、五大論争地の調査やコロンボにての論争の調査研究を行い、埋もれている資料の引きつづき発掘作業を行う。その際、ペラデニヤ大学のスタッフの協力を得て同国立大学や国立公文書館やマスコミ各社などが所蔵する資料の閲覧や調査、更に資料収集を行う。又その論争が起因となり世界的な仏教復興運動へと連なっていった思想的背景や運動の経緯を解明する。 更に七万人を超える死者を出した内戦の終結と共に、多数派で仏教徒中心のシンハラ人と、少数派ヒンドゥー教徒中心のタミル人との間に深刻な亀裂が生まれている現在、同民族による宗教対立を超えた平和社会の構築という社会的・政治的重要課題に対して、その解決策を同国歴史の中から見出す為の基礎資料の提示として、本研究成果を同国民族に向けて発信するための努力を行う。その為のシンポジューム等を前述の大学スタッフの協力を得て開催する。連携研究者保坂は同国南部のイスラム社会の歴史や文化を、現地調査を交えて調査研究すると共に、仏教とイスラムとの歴史的な交流についても検討する。また各地域のムスリムと仏教徒との共存関係を調査し、その現状や問題点についても両教徒から聞き取り調査を行なう。 なお、釈は本課題を総括しつつ、仏キ間の論争の現地調査・資料収集・整理を行い、研究論文や啓蒙書さらにはメディアへの発表を行い、本研究が挑戦的かつ萌芽的研究として達し得たことに関して、また同国の諸宗教共存の思想やその現実展開の意味を広く世界に公表するように努める。連携研究者保坂俊司もまた、キャンディを中心にムスリムと仏教徒の共存の在り方を現地調査などで収得した資料を整理すると共に検討を重ね、今日までこれらの地域において研究された事のない論考や啓蒙書等を挑戦的かつ萌芽的にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度行った現地調査に引き続き、再度現地に赴くことが達成し得なかったため、旅費並びに諸般の資料収集費及び人件費、物品費などに充当する。研究遂行に支障なく円滑に進められるように諸般の経費にあて、研究費をより一層適正かつ効率よく使用し、与えられた課題遂行に全力をあげる。
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