平成23年度(前年度)は、現地視察を中心に研究計画を組み立てた。研究対象はドイツ連邦共和国の首都ベルリンにおける記念碑・警告碑等である。この機会にその経年的変化を知ることができた意義は大きなものであった。 たとえばベルリン郊外にあるザクセンハウゼン強制収容所跡では、旧東独時代に造られた、その敷地のほぼ中央を横切る装飾的な壁が撤去され、かつてあったバラックが敷地の一角に再建され展示室として利用されていた。こうして本来あった形への復元が進んでいたことが印象的であった。ことほどさように、ドイツでは「記憶の政治・文化(=ナチ時代の過去との対決)」は、行政を中心にますます強化の一途をたどっているといえよう。 平成24年度(最終年度)では、視察に際して収集したパンフレットや撮影した写真・ビデオなどの資料の整理を行うかたわら理論構築のための準備作業として内外の文献収集を行ったが、同時に学際科目「異文化と出会う」の講義やドイツ語の授業などで、この度新たに加えられた写真・ビデオを教材として日本とドイツにおける「記憶の政治・文化」の差異を具体的に提示し、受講生に考えさせる機会を提供できた意義は大きかった。レポート等から判断するかぎり、この問題に関する彼我の違いに愕然とする意見が多かったようである。 いわゆる「歴史認識」をめぐって依然として修正主義的議論が絶えない日本において、海外の動向(本研究課題の場合はドイツ)を紹介し、その意味するところを考察することはきわめて重要かつ意義のあることである。今後ともこの問題を追究する所存である。
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