研究概要 |
本研究の目的は、日本ではほとんど紹介されてこなかったドイツ語圏のゼールゾルゲ(Seelsorgele:魂のケア)を悲哀(Trauer)に焦点を当てながら紹介すると同時に、比較思想史的に考察することであった。 ゼールゾルゲの悲哀理解の紹介としては、現在のドイツ語圏でよく読まれているグリーフケア文献の一つであるKerstin Lammer;Trauer verstehen, Formen-Erklaerungen- Hilfen, Neukirchener Verlagshaus 2004を邦訳、刊行した。(ケルスティン・ラマー著、浅見洋・吉田新共訳『悲しみに寄り添う-死別と悲哀の心理学-』新教出版、2013年)本共訳書は現在ドイツ語圏で用いられているゼールゾルゲのテキスト的な書物としては最初の日本語訳であり、「ゼールゾルゲの悲哀の理解」の紹介という当初の目的を果たすことができた。訳書では悲哀の出来事に際し、ゼールゾルゲの役割は、心理療法的な癒しであると同時に、喪失の意味を探すということであるということが記されている。悲哀において「私とは誰か」「人生の意味とは何か」といった本質的な問いが発せられた時に、人間存在の意義と人生の意味を教える聖書とキリスト教的伝統にのっとって、魂のケアが実践するということである。また、悲しみを抱える人に寄り添うために、悲哀プロセスの理解として従来の「段階モデル」に対して「課題モデル」が提示されていた。 また、併行して本研究では、S. Freud以降の臨床心理学的な死別研究と日本思想(西田幾多郎や綱島梁川)における悲哀の理解との比較思想的な考察を行った。その結果、臨床心理学では悲哀克服の方法として「死者との関係を断ち切って、新たな関係を構築すること」が語られていたのに対して、日本思想では「死者との関係の再構築」を志向してきたことが明らかになった。
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