研究課題/領域番号 |
23652015
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
下野 正俊 愛知大学, 文学部, 准教授 (70262053)
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研究分担者 |
木島 史雄 愛知大学, 現代中国学部, 准教授 (50243093)
須川 妙子 愛知大学短期大学部, ライフデザイン総合学科, 教授 (40342125)
山本 昭 愛知大学, 文学部, 准教授 (50269304)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 比較思想史 / 教養 / テクスト / アート・シーン / 情報 / 伝統文化 |
研究概要 |
平成23年度は研究初年度であり、また本研究は学際的性格が濃厚であるところから、研究分担者相互の共通了解の醸成、共通知識の確保が喫緊の課題と考え、頻繁に会合を持った。 会合では交付申請書記載の研究計画に基づき、1.下野が西洋テクスト世界の伝承形態について、木島が東洋古典籍の権威構造を紹介し、それぞれ【東西両文献文化の構造的記述】に関する議論の準拠枠を構築するに与って力があった。さらに、2.下野は、複数の芸術分野の実作者、評論家による連続講演会を企画したのを機に、芸術分野の具体的動向についての情報収集を行い、【現代のアート・シーンにおける批評・鑑賞行為の言説】に関する情報・知見を提供した。また、3.山本による電子書籍、ネットワークテクノロジーの現況についての紹介は、ともすればテクスト解釈史的研究に流されがちな議論を文化あるいはテクノロジーのアクチュアルな状況に即したものに保ち、【テクストという形態を取らない多くの情報】についての認識を深める上で有効だった。他方、4.須川は、伝統文化の継承における物質的前提条件を具体的な資料に即して例示することをもって、【日本独自の教養世界】を扱う視点を提供し、本研究の方法的充実に寄与した。 分担者各人が各個に遂行した研究のうち、とりわけ以下の二点が成果物として公表された。1.下野は18世紀ドイツ思想史の研究に注力し、カントの批判前期の自然哲学について、後述のとおり論文執筆、研究会発表を行った。2.須川は明治期京都上層商家における菓子消費について、実証的な研究を行い論文にまとめた。 以上の研究活動を踏まえ、平成23年度の成果を以下の通り総括する。1.以後の研究のための方法論の確認 2.文化事象としての教養の構造についての知識社会学的検討、考察の蓄積 3.教養の変貌について、明治期並びに現代という二つの時期を対象に、本邦におけるその実態の提示
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は教養なる文化事象の構造的概念化であり、同時のその変貌機制の明確化である。この研究に基づき、大学カリキュラムの実効的改変の提案という実践的成果が視野に入れられている。この観点から、平成23年度の達成度を、交付申請書記載の研究計画・方法に基づき、以下の通り評価する。 まず、今後の研究遂行の前提としての共通了解の醸成並びに方法論の検討、確認はおおむね所期の成果を達成したと評価する。この点を踏まえ、【東西両文献文化の構造的記述】という課題について、その方法論、理論的考察に関して、少なくとも研究分担者間の議論においては相当程度の深化をみた。 他方、【事物と情報の教養体系への内属の機構的考察】については、比較的多種の資料収集が求められる。この課題遂行については、対象領域の広範さとその多層的な性格のために緒に就いたばかりであり、いまだ万全を欠く憾みがある。平成23年度の研究遂行においてもっとも欠落していたのは、外聞研究者との情報交換並びに成果発表である。なお、大学カリキュラムについての考察については、着手したのみで展開には未だ至っていない。以上を踏まえて、平成23年度の達成度は25%程度と評価する。 平成24年度は資料収集の意を用いると同時に、情報交換、成果発表に一層注力していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は研究2年目であり、本研究の中心となるべき年度である。従って、平成23年度の成果を活かし、同時に既に指摘した欠落を補うべく、以下の通りの方針で研究を遂行するものとする。1.研究全体を統制する課題として、教養の動態的定義を提示すること。すなわち、文化事象としての教養とその変貌の機制について哲学、思想史、知識社会学、情報学といった複数のディシプリンそれぞれの観点から重層的に明らかにし、教養概念に対して明確な定義を与える2.国内外の研究者との情報、意見交換の活発化。平成24年度の研究においては、とりわけ香港の教養状況について着目することとする。香港は中国古典籍に依拠した教養伝統と、英国経由のヨーロッパ的教養とが融合することなく共存しているという点で、教養概念の研究に対して独特の意義を持つと考えられる。具体的には前者を代表する香港中文大学、後者を担う香港大学の研究者との共同研究を計画している。3.研究資料の収集。研究分担者のうち、特に須川の研究は未刊行の手稿に依拠する部分が多い。また、菓子製造といういわば「現場」において暗黙知となっている知識体系について情報を入手することが必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
原則として交付申請書記載の明細に則り予算を執行する心算である。しかしながら、本年度は上記推進方策に従い、旅費の一部を外国旅費に充当するものとする。それ以外の予算については、関連図書の購入、電子媒体、電子書籍の購入、謝金等、大きな変更を予定してはいない。
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