研究課題/領域番号 |
23652015
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
下野 正俊 愛知大学, 文学部, 准教授 (70262053)
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研究分担者 |
木島 史雄 愛知大学, 現代中国学部, 准教授 (50243093)
須川 妙子 愛知大学短期大学部, ライフデザイン総合学科, 教授 (40342125)
山本 昭 愛知大学, 文学部, 准教授 (50269304)
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キーワード | 思想史 / 教養 / 読書実践 / 書道 / 漢詩 / 和菓子 / 女子教育 / オントロジー |
研究概要 |
年度当初の計画に基づき、以下の通りの実績をあげた。 下野は、ドイツ啓蒙主義の思想史的研究を継続し、この時期の読書プラクシス、とりわけ「読書サークル」(上層市民の間で頻繁にみられた現象)と高等教育との関係について、相当程度実証的な研究を行った。また同時に、平成25年度の研究完結に向けてこれまでの成果を理論化する作業に着手した。それは、本研究の中間報告として公表された(2013年3月29日 「教養概念の文化横断的研究-その変容過程を中心に-」第七回人文社会学と現代に関する研究会 於愛知大学)。本発表は、「変化する教養」を鍵概念に、人文分野の、主として高等教育機関における教育・研究内容の変化に関するいくつかの史実を紹介しながら、それを知識社会学的に理論化しようとしたものであるが、同時に、今後の大学人文学教育におけるカリキュラム改革の可能性を検討することにもつながった。 木島は、「書」についての研究を継続させると同時に、政治権力者が「詩」をものする、という中国文化史上に特徴的な現象について、表象論的に考察した。また、建築に関する昨年度以来の研究成果を整理し、「Sugeriusと欧陽詢-中世のパリと初唐中国における芸術と学術の平行現象」(2013年3月31日 日仏東洋学会 於鳥取大学)において発表した。 須川は昨年来の近代京都上層市民への菓子文化と洋食普及の研究を、家政学の確立という観点からより包括的なものに仕上げ、モノグラフィー(「明治期の女子教育における実践的教養としての家政学の確立」)にまとめた。 山本は近年のネットワークテクノロジーの状況についての知識を他の研究分担者に提供すると同時に、オントロジー研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は教養という文化事象の構造的概念化であり、同時にその変貌機制の明確化である。この研究にもとづき、大学カリキュラ ムの実効的改変の提案という実践的成果が視野に入れられている。この観点から、平成24年度の達成度を、交付申請書記載の研究計画 ・方法に従って、以下の通り評価する。 まず、【東西両文献文化の構造的記述】という課題について、研究は24年度に相当程度の深化をみた。 研究分担者各人が選んだ記述対象、たとえばドイツ教養市民層とその読書プラクシス、中国政治思想における詩作の意味、書の文化史的位置づけ、和菓子と洋食の文化史、オントロジーなどについてモノグラフィー(あるいはその草稿)をものし、一部を公表し得たためである。さらに24年度は、とりわけ、本研究において適用すべき思想史方法論について密度の濃い議論がなされ、共有された。 【事物と情報の教養体系への内属の機構的考察】については、前提となる資料の収集がある程度進行したことをもって、実質的考察の段階に入った。上記方法論の闡明と併せて、少なくとも課題遂行については、一定の目処をつけることができたと思量する。平成23年度は、研究遂行においてもっとも欠落した点として、外部研究者との情報交換並びに成果発表があげられた。この反省にもとづき、24年度は可能な限り他分野の研究者と公的・私的に情報・意見交換を行った。 また、大学カリキュラムについての考察に関しては 、下野の研究発表(2013年3月29日 第七回人文社会学と現代に関する研究会 於愛知大学)において現段階での成果にもとづき提言することができた。 以上を踏まえて、平成24年度の達成度を70%程度と評価する。 平成25年度は、24年度の成果を踏まえ、研究の総括、体系化とその公表に意を用いることにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は研究3年目であり本研究の最終年度になる。従って、平成23,24年度の成果を活かし、それらを総括するため、以下の通りの方針で研究を遂行するものとする。 1. これまでのモノグラフィーとしてまとめられた各自の研究をさらに精緻化すると同時に、それらを重層的に体系化し、哲学、東西思想史、知識社会学、情報学といった複数のディシプリンの制約を超えた、領域横断的な教養概念を構築すること。 2. 国内外の研究者との情報、意見交換をさらに活発化すること。平成25年度の研究においては、前年度実現できなかった海外の教養状況について、実見、資料収集を遂行することとしたい。とりわけ、香港、イタリアがその対象となろう。香港は中国古典籍に依拠した教養伝統と英国経由のヨーロッパ的教養とが(融合することなく)共存しているという点で教養概念の研究に対して独特な意義を持つ一方、イタリアは古典古代の教養世界の継承と断絶について豊富な資料を提供しうるからである。香港については、中国的教養を代表する香港中文大学、西洋的教養を担う香港大学の研究者との共同研究 を計画している。 3. 収集した研究資料の整理。研究分担者のうち、特に須川の研究は未刊行の手稿に依拠する部分が多い。また、菓子製造といういわば「現場 」において暗黙知となっている知識体系について情報を入手することが必要であった。こうした領域について得られた資料、知見を過不足なく整理することも、本年度の重要な課題になるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
原則として交付申請書記載の明細に則り予算を執行する心算である。しかしながら、本年度は上記推進方策に従い、旅費の一部を外国旅費に充当するものとする。それ以外の予算については、関連図書の購入、電子媒体、電子書籍の購入、謝金等、大きな変更を予定しない。
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