研究課題/領域番号 |
23652017
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
畠山 浩一 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (90344639)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 美術史 / 思想史 / 宗教学 / 仏教 |
研究概要 |
当該年度の研究については、おおむね予定していた通りの進行状況となった。 まず、作品調査については、国内のべ16の博物館および美術館にて、作品の調査および観覧を行うことができた。その過程で調査対象とした作品は屏風絵を中心におよそ50作品を越えた。金地金雲を使用する作品を重点的に調査観察し、その発生過程と金の効能について研究を進めた。とくに二つの作品(「曽我物語図屏風」、「源氏物語図屏風」ともに根津美術館蔵)については、詳細な写真を撮影する機会を得た。これにより、物語表現における金地金雲の効能について深く考察することができた。と同時に、16世紀から17世紀にかけての金の使用法について、金箔と金泥の使用箇所の差異をはじめとする技術的なデータを得ることもできた。 一方で、絵巻や仏画など宗教を主題とする絵画についても、多くの作品を実見することができた。これにより、日本絵画が古来、聖なる空間をどのように表現してきたかについて、多面的に検証することができた。特に金泥を用いて雲霞や地面を装飾する作品については、その効能について注目し、近世障屏画との比較検討を行った。 当時の宗教的感覚に関する思想等の研究に関しては、まずは各種の研究書を渉猟し、基礎的な研究状況の把握に努めた。とくに死生観、宗教儀礼、土地にまつわる宗教性などの問題について、知見を深めることに注力した。中世から近世にかけての日本人が、自分たち人間が暮らす世界、いわゆる「この世」、「此岸」などと、死者の居場所たる「あの世」、「彼岸」や、神仏などの超越者が暮らす「浄土」、「天」などについて、いかなる空間的差異があると考え、どのようにそれぞれを区別し、認識していたのかについて考察した。 以上、当該年度においては、作品調査と文献の渉猟を中心に、データの収集と知見の深化という、基礎的研究の進展に努め、一定の成果を収めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、作品の調査については、ほぼ想定していた数量の作品について調査、観覧を行うことができた。当該年度は近世絵画を扱った展覧会が多数開催されたため、一度に多くの作例を比較検討することができ、研究を進める上での一助となった。とりわけ、サントリー美術館において南蛮美術に関する大規模な展覧会が開かれたのは、西洋からの影響を探る上で絶好の機会となった。これにより、西洋絵画と日本近世絵画との関係性について、予想以上に早く、かつ深く知見を広めることができたと言える。 本格的な写真撮影を伴う調査に関しては、複数の作品について貴重な写真データを得ることができた。これにより、物語の絵画化にあたって金が担った機能について、理解を深めることができた。同時に、金箔と金泥の使い分けについて精査し、その差異を検討する機会も得た。 対象作品のデータベース化については順次、パソコン等を用いて進めており、土台となる形式は整いつつある。現時点では項目の整理を中心とし、全体的な構成を整えることを優先し作業している。現在、予定の作品数量に比して三分の二ほどをとりまとめたところである。データ化する項目については、現段階では必要と思われるものよりもやや多めに、総体的に取り上げており、順次取捨選択し、内容の精査を進めていく予定である。 近世の世界観、日常生活における宗教的感覚の考察については、研究書、論文等を博捜し、基本的な知見を得ることができた。そのうえで当時流行した物語文学や日記類を読み進めており、とくに日記類については、活字化されたものを中心にではあるが、想定以上の分量を読み進められたといえる。次年度以降の本格的な解析に向けて、当該年度は情報を収集し、論点および検討課題の明確化を進めることに努めた。 以上、当該年度の研究はおおむね順調に進展したと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、前年度に引き続き精力的に作品の調査、観覧を行いたい。今後は作品選定の基準をより広くし、金地金雲形式、総金地形式を採用する作品群を総体的に調査していくこととする。くわえて、同じような主題を扱いながら、金の使用頻度が低い、あるいは全く使用しない作品についても考察対象として取り上げ、その特徴と金地採用作品との違いについて比較検討していく。なお、それらの調査にあたっては、可能な限り写真撮影を行えるよう所蔵先に働きかけ、詳細な写真データを取得することに努めたい。さらに、国内にとどまらず、海外の所蔵作品についても調査する機会を得るよう、交渉を進めることとする。 一方で、データベースの拡充も順次行っていくこととする。対象作品の選定についてはほぼ終わっているが、現在のところその目録化は三分の二程度にとどまっており、これを完成させることをまずは目指したい。その上で項目の取捨選択と情報の記入を進め、年度中におおよその形を整えて、内容の分析等にとりかかれるよう努めたい。 思想的側面に関する研究、近世日本人の世界観および空間認識の研究については、史料の読解、分析による考察を引き続き進める。特に行動および思考原理のパラダイムに、仏教をはじめとする宗教的思想がどのような影響を与えているのか考察し、さらにそれが絵画作品とどう関連しているのか検討する。日記や随筆などに加えて、次年度は物語や説話などの文学作品についても広く読み進め、同じフィクションとして絵画とどのような共通性、あるいは差異を持つのか、比較検討していくこととする。 以上、絵画作品と思想認識の双方において、調査および分析の深化にまずは努めたい。そのうえで、データ収集の蓄積をある程度なした後に、その解析と検証に研究の軸足を移していきたいと考える。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費については、海外も含めた作品調査に前年度以上に注力する予定であり、そのための旅費が多くを占めるものと思われる。海外についてはアメリカに一週間ほど滞在することを考えているが、研究の進捗具合を見ながら、調査補助として学生を同行することも視野に入れておきたい。国内については東京を中心とした関東、京都を中心とした関西方面に、複数回旅行する予定である。その際、写真撮影を伴う実見調査を許可された場合など、やはり補助として学生を同行させることを考えている。 物品については、本格的な撮影調査に備え、レンズ交換式の一眼デジタルカメラを購入する予定である。精細な写真データを得るために、ある程度性能の高いものが必要であり、また作品の形態、保存状況などに応じて、使用するレンズが変わってくることが予想されるため、複数の交換レンズを購入する必要があると考えている。一方、撮影した写真データの管理にくわえ、金の使用の有無による効能の差異などについて、画像処理等を施して仮想的に比較するため、デスクトップ型も含めた高性能パソコンの購入を考えている。その際、PhotoshopCSシリーズなど、複雑かつ高度な画像処理が可能となるソフトも導入したい。 謝金等については、上記の通り学生の補助を伴う調査旅行を予定しているため、前年度に比して大幅な増加が予想される。また、主に画像データの収集と整理についても、相当程度の補助作業を考えており、それに伴う謝金の支払いが想定される。 その他、撮影機会の増加に伴って、写真の現像費やカメラ周りの消耗品購入も増加するものと考えられる。また、作品の調査許可願いなどに関連し、随時通信費を計上することになると思われる。史料集、図版集をはじめとした図書についても、前年度に引き続き相当数を購入する予定である。
|