本研究は、これまでその世俗性や装飾性が強調されてきた近世初期の障屏画において、新たに仏教を中心とした宗教思想の表出を画面上に認めようとするものである。特に背景表現における金の使用法に注目し、様式的な問題にとどまらない、主題上に果たすその役割について考察を進めた。同時期には背景をすべて金とした総金地形式が流行するが、これは画面を装飾する効果を持つと同時に、画面内空間を理想的空間として規定していると思われ、それはまた、宗教思想によって長い時間をかけて育まれた、人々の感覚的規範を反映したものであると考えられる。
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